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「夏ドラマに費やした時間の損得勘定・また凄いヤツを見つけた」~夏ドラマから知ったこと考えたこと⑤

 この夏、テレビドラマを観るために費やした膨大な時間、
 そこから得たものと釣り合っているのだろうか?
 生き急ぎ、何か損だと感じている年寄りは、文化的であることも難しい。
 その他、拾い遺したこと――。
という話。(写真:フォトAC)

【ドラマに費やした時間の損得勘定】

 今年の夏のテレビドラマ、23作に目を通し、12作を最後まで見て、4作に感心したと書きました。
 
 23作の中には「真夏のシンデレラ」や「トリリオンゲーム」「警部補ダイマジン」などのように早々に諦めたドラマもあれば、「シッコウ!!~犬と私と執行官~」「18/40~ふたりなら夢も恋も」などのようにけっこうな回数視聴した挙句やめたものもあり、最終回までいったのに、「なんで最後までみちゃったのだろう」と後悔するようなドラマ(「彼女たちの犯罪」)もありました。中には「VIVANT」のように、早々にやめてしまったのにあとから評判になっていることを知り、撮り溜めてあった過去の回を何時間も苦労して全部視聴した上で「やっぱダメだ、こりゃ」と思うものもありました。たいへんなムダをしたものです。
 
 しかしこの夏、現職のころと同じように忙しさに取り紛れ、テレビドラマをいっさい見なかったとしたら、「しずかちゃんとパパ」でコーダ(CODA:聞こえない親のもとで育つ、聞こえる子どもたち)のことを知ることはなく、「何曜日に生まれたの」で人間の複雑さと弱さ・優しさを見返すこともなく、また、「わたしの一番最悪なともだち」で「子どもはどうして嘘をつくと叱られるか」の答えのひとつに出会うこともなかったのです。
 
 昔、高橋和巳という小説家は、
「魚が絡む漁網の目はひとつだが、だからといって網目ひとつを海に沈めて魚をとろうという人はいない。広大な漁網を広げてようやく網目ひとつが役に立つ」(大意)
と例を上げて、ひとつの知識が役立つためには、たいへんな量の教養が必要となる知識の構造を説明しました。しかしたった三つの知見を得るために、あんなにたくさんの時間をドラマに費やしたかと思うと、やはり釈然としない気持ちは残ります。
 
 もちろんドラマは知識を得るためのものではなく楽しむもので、《楽しめたかどう》かが《ムダだったかどうか》を分けます。そこで問いを変えます。
「この夏、あんなにたくさんのドラマを観たことで、十分に楽しめたか――」
 確かにいくつかのドラマは楽しめました。しかしムダにした時間も長かった、つまらないドラマに長く付き合い過ぎた、そんなふうにも思います。
 昔は思わなかったのに、年寄りは、身体は動かないのにけっこうせっかちです。それはもしかしたら余命が少ないので時間をムダにしたくないからかもしれません。普段、ほんとうは有効な時間の使い方などしていないにもかかわらず――。

【その他気づいたこと、よしなしごと、拾い遺したこと】

  1. いわゆる「逃げ恥」(「逃げるは恥だが役に立つ」)以来、偽装結婚はどこかのキー局で必ずやっている定番みたいになってしまった。そして役者以外にほとんど新鮮味がない(「ウソ婚」)。

  2.  不動産業者や編集者、弁護士の業務をサポートするパラリーガルなど、特殊な職業の現場を舞台とするドラマが、継続的に存在する(「転職の魔王」「シッコウ!!~犬と私と執行官~」など)。しかし仕事の内容が分からないと物語が分からず、説明が多いと鬱陶しい。もちろん勉強する気で見るなら苦しくはないのだが。

  3. 「人生何周目?」といった生まれ変わり、もしくはやり直しドラマがちらほら出てきている。しかしやり直しの人生なんて、一か所いじったら全部が変わってしまい、すぐに経験知が役に立たなくなってしまう。かといって全体に影響しない細かな点を修正するだけなら、やり直しの人生もまったく面白くないだろう――そんなことを考えながら見るドラマはやはり楽しくない。

  4. 「最高の教師~1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ)は、久しぶりにイライラせずに見ることができた学校を舞台としたドラマ。
     教師の多忙がこれだけ言われ、社会から同情的に見られるようになったためか、出てくる先生たちの中に強圧的な教師、やる気のない教師、悪い教師がひとりもいなかった。通常、学園ものでは確実に“悪い人”になっている教頭先生まで“いい人”で、ネット上でも尊敬されたのは良かった。
     ただしいつも思うことだが、出てくる生徒たちは皆、一様に道徳的に優秀。自分が悪いと分かるすぐに反省し、反省すると確実に態度を改めることのできる、そこが現実とは違う。あんな生徒ばかりだったら教師は苦労しない。
     実際の子どもはドラマよりもっと悪いという話ではない。反省しても口に出せない、口に出してもなかなか改められない、それが人間というものだ。もう十分に大人である私だって素直に謝れないことはあるし、謝っても何度でも同じことを繰り返す。だから世の中は難しい。
     大切なことはうまく反省を引き出すこと、そして反省を生かすための支援を長く続けること、放っておいても大丈夫になるまで――。

  5.  「謝る」で思い出したが、「しずかちゃんとパパ」でしずかちゃんの恋人になる青年、その青年の会社の上司は、謝りたくないのに謝らなければならない場面ではしきりに頭を下げながら、早口で強く「コメ・野菜」を繰り返していた。あとで種明かしをされるまで、視聴者である私にも「ごめ(ん)なさい」としか聞こえなかった。あれは真似したい。

  6.  「ハヤブサ消防隊」(テレビ朝日)は池井戸潤原作、中村倫也主演・川口春奈共演ということで大いに期待した。それなりに楽しんで最終回を迎えたが、カルト教団から深くマインド・コントロールを受けたはずの二代目教祖(候補)が、あっさりと正気を取り戻し、仲間を裏切ったのにはがっかりした。あんなに簡単に解決するならカルト問題はないと思う。

  7.  その「ハヤブサ消防隊」の教団は、事件解決後もしぶとく生き残って別の2代目教祖を立てる。そこで現れたのが白塗りの恐ろしげな女性。あまりにも奇怪なので調べたら、ドラマの挿入歌「命日」を歌う“ちゃんなみ”という歌手だった。
    「命日」のプロモーション・ビデオは昭和ヤクザの世界にどっぷり漬かっていて、薬物、指詰め、抗争、粛清と、とてもではないが子どもには見せられない代物で、文化的には私が受け付けない。そこで、ここではもっと穏やかなものを張っておく。
     「新しい学校のリーダーズ」「水曜日のカンパネラ」に続いて、今年夢中になっている三人(組)目。ラップなのに昭和の匂いばかりがする――。

    (この稿、終了)