カイト・カフェ

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「ハゲないためにシャンプーはしない、食べないことが健康の秘訣」~トンデモ学説の話①

髪は水洗いで済ませることがハゲない秘訣――。
大真面目で信じているわけではないが、10年以上励行している。
健康になるための第一は食べないこと、できれば生涯断食を続けたい――、
そう信じる人もいる。ほんきで信じているのだ。
という話。
(写真:フォトAC)

【シャンプーを使わない育毛法】 

 かれこれ10年以上、シャンプーで髪を洗っていません。水洗いだけです。
 妻は洗髪後の髪の匂いがイヤだから使ってくれといいますが、今さら頭髪の環境を変えあれよあれよという間にハゲてしまうのが怖くて、頑固に水洗いで頑張っているのです。
 
 シャンプーをやめたのは10年ほど前、お世話になっていた診療所の先生から勧められたから。頭髪の隙間から地肌の見えるお医者さんでしたが、ある日よもやま話の中でこんなことを言い始めたのです。
「私の髪、見てください。かれこれ2年以上も石鹸やシャンプーを使わず水洗いだけなのですが、そうしたらホラ、ずいぶん一本一本が太くなってきたでしょ?」
 そう言われても2年前の先生の頭髪なんか見ていませんから太くなったかどうかなんて分かりません。しかしハゲを指摘されるほどの薄さではありませんから良く保っているということなのでしょう。医師は重ねて言います。
「ね? 考えてみれば江戸時代の人だって原始人だってシャンプーなんかしていなかったのですよ。だから髪なんて水洗いで十分、あんなもの使うべきではありません」

 シャンプーをやめれば洗髪の時間は半分以下になりますし、シャンプー代もかからない。そのうえ頭髪まで守られるなんてこれ以上いいことはない? ということで私も始めたのですが、そこにはさまざまな意味での問題がありました。


【髪のことは神のみぞ知る】

 幸い、かなり薄くなったとはいえ、今の私には真上から見なければハゲと言われないで済む程度に髪が残っています。しかしそれが脱シャンプーのおかげかどうかは必ずしもはっきりしません。もしかしたらあのままシャンプーを続けていても現在程度だったのかもしれませんし、逆にその方がもっと多くの髪を残せたのかもしれません。
 「同じ頭の右側だけシャンプーを使って左は水洗い」といった実験をすれば違いが出たのかもしれませんが、それとて正確なものではないでしょう。髪が残るかどうかについては、他に山ほどの要因があるのですから。
 
 そもそも医師の話を聞いた時から気になっていたのですが、江戸時代の人たちがシャンプーを使わなかったのは事実としても、ハゲが少なかったどうかは私の知る限りデータがありません。さらに江戸時代も含めて原始人まで遡ると、当時の人々は現代人よりはるかに寿命が短く、髪に寿命が来るずっと以前に本体が天寿を全うしてしまった可能性が高いのです。
 
 そう考えると「脱シャンプーふさふさ論」もかなり怪しくなってきますが、時間とシャンプー代が節約できるのは確実ですし、髪が残っている以上いまさら方向を変えて後悔したりしないよう、妻には風呂上がりの髪の匂いに耐えてもらおうと思っています。


 【食べないことが健康の秘訣】

  さて、突然”脱シャンプー“について書いたのは、最近弟から、これも怪しいマユツバ論を聞いたからです。それは「食事は身体に悪い説」あるいは「一日一食健康法」といったものです。
 知らなかったのですがネットで検索すると「一日一食健康法」にはもう10年近い歴史があるみたいで、その論拠は、
「人間は危機的な環境になると生命力がわく。空腹でおなかが鳴っているときは若返り遺伝子が増量し、長寿ホルモンが分泌され、肌つやも良くなる」
「おなかいっぱい食べられるようになったのは最近で、人類の歴史は飢餓の歴史でもあり、空腹の方が体に向いている」
とか。あるいは、
「内臓は常日ごろがんばって働いてくれている。一日一食にすると内臓を休ませることができ、各消化器官が本来の働きを取り戻して正常に機能することができる」
とか、
「私たちの免疫力の約70%は腸で作られている。その腸を休ませることにより、その働きが活性化し、本来の機能を取り戻して、免疫力を高めることができる」
とか、
「一日一食により腸が本来の機能を取り戻し、排泄力が高まるため体内に蓄積された有害物質を排出することができる」
とか。
「考えてみると目にゴミが入れば涙で流し、皮膚にとげが刺されば自然に押し返すように、身体には異物を押し出そうとする性質がある。食物は人間が最も多く体内に入れる“異物”であって、その意味ではできるだけ食べないことが最大の健康法」
ということになります。
 世の中にはまったく食べることなく健康に生きている人も少なくなく、一日一食、青汁だけで健康を保っている人もいる――とのことです。

 弟はとりあえず一日二食からはじめる、江戸時代の農民だって三食たべていた人は稀なのだからといいますが、そのとき浮かんだのが「脱シャンプーふさふさ論」、昔の人はシャンプーなどしなかった、です。
 江戸時代に三食たべない人が大勢いたのは事実だとしても、彼らが現代人より健康だったかどうかは定かではありません。少なくとも平均寿命は今よりかなり短かったはずです。

【害のない、他愛ないものだけではない】

 「脱シャンプーふさふさ論」にしても「食べない健康法」にしても、ある意味大した問題ではありません。水洗いだけで頑張ってもハゲてしまったら「あまり意味がなかったかな?」と思って諦めればいいだけですし、「食べない健康法」で栄養失調になっても死ぬ前にブレーキがかかるでしょう。しかし世の中には、それを信じたら取り返しのつかない類のトンデモ学説があります。
 この夏つくづく考えさせられたのは、そうした学説のうち、教育とコロナに関する二つのものでした。
(この稿、続く)