カイト・カフェ

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「プーさんはダースベーダーにしかなれない」~気になる東アジアの動向 

 性格がしつこいので同じテーマで長々と書いていたら、
 メモしておくべきさまざまなできごとが置き去りになってしまった。
 中国や北朝鮮に気になる小さな出来事が続いている。
 だから今のうちに、メモ、メモ・・・。

という話。

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(写真:フォトAC)



【死ぬ前の二つの想い】

 四半世紀ほど以前、重篤な病気になって死を覚悟したとき、家族のことは妻に任せるとして、「ロード・オブ・ザ・リング」とか「マトリックス」とか、続きのある映画については最後まで見ておきたかったなというのと、もしさらに数年の猶予が与えられるなら、東アジアの帰趨について見ておきたかったなというのが最後の想いでした。将来の自分の子や孫が生きる世界が、どんなふうになるのか見届けたかったのです。

 それから予想外のことが二つ起きます。ひとつは病気がほぼ完全緩解したこと、もうひとつは東アジア情勢が一向に変化しなかったことです。
 北朝鮮金王朝はしぶとく生き残りましたし、30年も前から「明日にも崩壊する」はずだった中国経済はますます盛んで、私が普通に生きて普通に死んでも何ら変わることなく存在していそうな雰囲気です。韓国との関係も驚くほど悪くなっていきます。
 そんなこんなでなかなか死ぬことも、東アジアから目を話すこともできなくなっています。
 
 

【中国は若者の熱狂を許さない】

 今週、奇妙なニュースが入ってきたので紹介しておきます。それは中国政府が芸能やゲームコンテンツに対して規制をかけてきたという話です。

 芸能に関してはコンサートやファンクラブへの未成年者の参加制限、芸能人のランキング廃止などが通達されたとのこと――。
 あまり知らなかったのですが、特定の芸能人に心酔する若者は“飯圏(ファンクエン)”と呼ばれ、例えば韓国の人気グループBTSのファンは「航空機にBTSをラッピングしよう」と呼びかけてわずか1時間で4000万円も集めてしまうほどに大きな勢力となっているらしいのです。これはかつて日本のAKB総選挙が、中国系富豪の出方によって左右されたのとは少し違います。人数がケタ違いなのです。

 ゲーム業界も意外な規制をかけられています。
 オンラインゲームでは子どもを守るという名目で、未成年者は金曜日から日曜日の三日間および法定休日の、しかも8時から9時までしかサービスを受けられなくなりました。ゲーム自体の表現方法にも細かな規制がかけられ、宗教的な要素は認められないとされたため、開発中のゲームは急遽キャラクター変更をせざるをえなくなったそうです。
 プロゲーマーをめざす学校も生徒が激減。廃校を余儀なくされたと言います。
(2011.10.07 NHKニュースウオッチ9「中国『芸能界規制』強まる背景は」)
 
 

【まるで文化大革命だ】

 なぜそんな規制をかけるのか――NHKによると要するに、中国政府は「統制できない集団は認めない」「コントロールできない様子が見えたら芽を摘む」という方針で、「アーミー(BTSファン)」やゲーマーたちに網をかけたらしいのです。指導部はアイドルを応援する声が政府批判に変わることを警戒しています。

 一部ネット市民はSNSで「まるで文化大革命だ。国はひとつの声しか許さない」とか「中国社会はとっくに終わっている。誰も庶民の声を聞かない」とか書き込んで抵抗していますが、個人情報のほとんどが政府に吸い上げられる中国ではそんな抵抗も長続きはしないでしょう。唯々諾々と従っていくしかありません。

 ただ、可能性がまったくないわけでもないでしょう。
 いま取り上げたSNSの書き込みで、「まるで文化大革命だ」が平然と使われているのは、書き込み主がこの表現で多くの人々が状況を伝えることができると踏んだからです。つまり文革の中身を理解している若者が、現代中国には大勢いるわけです。
 32年前に不満をもった若者たちが何をしたか――それを知っているということは、いざというとき自分たちが何に注意して何をすればいいのか、知っているということです。
 指導部が芸能界やゲーム界に注目したのは当然と言えば当然ですが、すでに遅きに失しているのかもしれません。
 
 

【プーさんはダースベーダーにしかなれない】

 インターネットは世界と繋がっていますし、昨日まで見てきた通り、人々を集団としてまとめることも分断することも簡単にできるのです。いちどネットでゲームやアニメ、アイドルや外国映画を知ってしまった人々に、忘れろといってもできることではありません。

 また、自由主義のもとで育った芸能やゲーム・アニメは、本来、権威主義とは相いれない要素を持っています。
 若者に限って言えばBTSは習近平首席よりもはるかに高い集客能力を持っているはずですし、習指導部の言うことは聞かなくてもBTSの言うことはきくかもしれません。つまり権威を二分することができるのです。

 さらに、ゲームやアニメ、娯楽映画では、多くの作品で“正義”が主題として扱われます。正義の若者が巨悪を倒すというのは基本的な形です。
 ところが「スター・ウォーズ」あたりを思い浮かべると、どう考えても習首席はルーク・スカイウォーカーでもハン・ソロでもなく、ダースベーダーです。人民公会堂前での軍事パレードの様子は、帝国軍のそれとそっくりと言えます。

 もしかしたらバーチャルの世界にどっぷり浸かっていた若者が、制限のために否応なく見ることになる現実は、「スター・ウォーズ」にそっくりなものなのかもしれません。そしてそこにいるのは、かつては「ぷーさん」と揶揄され、いまはダースベーダーにしか見えない“あの人”なのです。

(追記)
 実は先日報道された北朝鮮の“列車搭載型弾道弾”のことも気になっていて、なぜ他の国に類を見ないのかずっと考えていました。その結果思いついたのは、「あんなもの役に立つはずがない」ということです。経路のはっきりしている移動ミサイルなんて、ちっとも怖くない。
 では、なぜそんな「役に立たない発射台」をつくったのかと考えたとき、ハタと気がついたことがあります。それは「カッコウいいから」ということです。もしかしたら北朝鮮には戦略というものがなく、金正恩氏は日本の子どもがプラレールを集めるのと同じように、あれこれ幾種類ものミサイルを手にしては遊んでいるのではないか――。
 考えていくと面白そうなのですが、すでに今日も長すぎるほど長い文になってしまいました。このあたりでやめておきます。