カイト・カフェ

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「面倒な隣人とのつき合い方」〜韓国の有力紙を読みながら考えた

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  長く尾を引いていた慰安婦問題がいよいよ「和解・癒し財団の解散」という最悪の転換点を迎えようとし、徴用工裁判で日本中のマスコミが異例の同一歩調で韓国の非を打ち鳴らしている最中、BSEだかBSTだか知りませんが(BTSか?)防衛少年団という韓流ヒップホップグループのひとりが原爆の写真をあしらったTシャツを着ていたとかで、日本のテレビ番組から締め出され問題になっています。

 韓国国内からは日本に対して「偏狭な日本のテレビ局、防弾少年団の出演が相次ぎ白紙に」(2018.11.11朝鮮日報)とか「日本メディアの難癖で、Mステ出演が突然見送りに」(2018.10.09中央日報)とか、あるいは「世界的なメディアに今回の状況がすべて報道されたことで、かえって世界の若者ファンに『日本は戦犯国』という事実を確実に刻印させる契機になった」(2018.10.12中央日報)とか、「日本メディアが嫌韓あおる? K―POP巡りネガティブ報道相次ぐ」(2018.11.13東亜日報)とか、強く不快感を示す報道が続きました。

 そんな中でこの問題に新聞社として早い段階からきちんと説明をし、納得のいく論評を加えたのは、なんとハンギョレ新聞(韓国では単にハンギョレと呼ぶらしい)だったのです。  ハンギョレ新聞といえばかなり左翼的な、現在は文政権御用達と言ってもいいような新聞社で、あまりにも北朝鮮よりなため私もしばしば激しく苛立つ新聞です。

 ところがそのハンギョレ新聞が13日に掲載した「防弾少年団のTシャツは果たして愛国心の象徴なのか」は、実に的を得た内容で、これさえ読んでおけばたいていの異論に対抗できると思われるくらい素晴らしい記事だったのです。

 

反日であるかどうかが問題なのではない】

 内容をかいつまんでお話しすると、
 防弾少年団のTシャツは果たして愛国心の象徴なのか
 原爆は人類の最大の悲劇であり、1945年8月に日本の広島と長崎に2度投下された原子爆弾によって被爆した70万人の被害者のうち、朝鮮人は7万人程度と推定される。朝鮮人被爆者は4万人以上が命を失っており、3万人だけが生存し、このうち約2万3000人が朝鮮半島に戻ってきた。2018年基準で大韓赤十字社に登録された国内の原爆被害者は2344人で、平均年齢は83歳だ。
 したがって、
 核問題だけは『ナショナリズム』を超えるべきであり、今回の議論を通じ、広島と長崎の原爆による解放と独立という『ナショナリズム的構図』を越え、『核兵器の非倫理性』というより幅広い問題提起へと認識を広げるきっかけを作るべきだというのです。
 まったくその通りです。

 もちろん韓国国内向けの記事ですから私たちが扱うには多少の変更は必要ですが、私たち日本人もこの問題を反日だの嫌日だのと矮小化せず、原爆を軽々しくファッションに使うことの非につい強く訴えなくてはなりません。
 きのこ雲をTシャツに印刷していいのは、雲の下で苦しむ人間たちの姿をありありと浮かべ、その思いに心を寄せて二度とこうした悲劇を起こしてはいけないと訴え、誓う時だけなのです。

 

【互いを冷静に観ること】

 問題が原爆Tシャツだけだったらいつまでも平行線だったのですが、過去の写真からナチスの徽章やナチスを思わせる赤旗のが軽々しく扱われたことについて、アメリカのユダヤ人権団体から抗議が出されるに至って事態は一気に変わります。

 考えてみればBTSのメンバーはいずれも20代半ば、まだまだヤンチャ盛りです。それにヒップホップはそもそも反社会を起源としていて、今でも一部は社会の反主流・非行のイメージを売り物にしています。

 おそらくBTSは、というより彼らを含めた周辺(芸能界全体と言ってもいい)は、面白ければいい、カッコ良ければいいというだけの理由で悪乗りして、そのまま抑えが効かなくなっただけなのです。反日活動家や親ナチを標榜するアメリカのオルト・ライトのような政治的信念があるわけでもない。
 本来は里に下りてきたクマのように、お仕置きをして山に返してやればいいだけの話でした。

 BTSの所属事務所は13日になって謝罪表明をして沈静化を図り、韓国の保守系新聞もそれを受けて事態を前向きにとらえようとしはじめています。

 昨日の朝鮮日報「【コラム】われわれ韓国人が手を差し出すべき日本人もいる」は、

 広島平和記念公園には韓国人原爆犠牲者慰霊碑が建っている。もともとは同公園の外にあった。その慰霊碑を公園の中に建てられないようにしたのも日本人だし、そうした人々と闘って慰霊碑を公園内に移し、共に追悼したのも日本人だ。防弾少年団はきのうの東京ドームを皮切りに、大阪・名古屋・福岡でドーム公演を行う。全席売り切れだそうだ。両国の不和を狙って1年前の動画を見つけ出し、邪魔しているのも日本人だが、防弾少年団のコンサートチケットを完売させて歓迎しているのも日本人だ。どちらの日本人に我々が手を差し出し、その手を取れば、歴史問題の痛みを乗り越えられ、未来への扉を開けるのかは明らかだろう。
と書いて
 両国関係の悪化を望む人々が仕掛けた「わな」
にはまらないよう呼び掛けています。全く妥当なことと思います。

 

【指導者の勇気】

 そう言えばしばらく前の中央日報にもとても考えさせられる記事がありました(2018.11.01【噴水台】日本、国の敵なのか)。

 感心したのは1965年の日韓請求権協定の基礎となった大平正芳外相と金鍾泌キム・ジョンピル)中央情報部長(肩書はいずれも当時)の会談に関する部分です。話し合いのあと、金部長は大平外相にこんなふうに言うのです。
「我々が会った以上は、あなたは日本の小村寿太郎になれ。私は李完用(イ・ワンヨン)になる」

 李完用日韓併合条約調印の時の首相で、韓国ではたびたび売国奴として引き合いに出される人だそうです。小村寿太郎は言わずと知れたポーツマス条約の調印者で、日本国民がどれほど怒るか容易に想像できたため、横浜に帰る船の中で「すでに家族は殺されているだろう」と覚悟したといいますから相当なものです。

 日韓請求権協定がそれぞれの国民をどれほど怒らせるか予想した金は、大平に「どんなに国民の反感を買おうとも、政治家にはやらなければならないことがある、それを自分たちが担おう」と語ったのです。
 世界にはびこるポピュリズム政治家に教えてやらなければならない話です。

 

【厄介な隣人と暮らす】

 韓国はとても厄介な国です。
 しかし隣り合った国なんてみんなそんなもので、イギリスとフランス、ドイツはそれぞれ互いを厄介者だと思っているに違いありませんし、パキスタンとインド、インドと中国、中国とロシア、ロシアとウクライナ――すべて互いを面倒くさい隣人だと思っているはずです。ベネルクス三国のような仲良しだって統一しようとしないのですから、他は推して知るべしです。

 日韓関係もむやみに挑発に乗らない国民の落ち着きと、政治家の勇気ある決断によって、なんとかうまくやっていくしかありません。面倒な隣人でも互いに引っ越すことができないのですから。