「なぜ医療はいきなり追い詰められたのか」~新型コロナについて分からなくなったこと、分かったこと②

 なぜ他の先進国はあれほどのPCRができたのか、
 その答えはいずれ出るだろう。
 しかしそれにしても、日本の医療はなぜ
 かくも簡単に崩壊直前に追い詰められたのか。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200508072300j:plain(「救急車」フォトACより)

 

 【答えはいずれ出る】

 中国のように医師が289万人もいれば、PCR検査のために1000人引き抜いても病院の日常に支障はないでしょう。韓国には3000人もの公衆保健医がいて、これも強制的に借り出すことができます。SARS・MARS被害で感染症に警戒心の強い国にはそれなりの覚悟もありました。

 ですからこれらの国で十分なPCR検査ができたことは分かるのです。しかし何の準備もなかったはずの欧米諸国がすさまじい勢いで検査数を増やしていく中で、先進国としては日本だけが増やせないというのはとても衝撃的でした。

 ヨーロッパやアメリカはいかにして検査数を増やすことができたのか――これには思うところがあります。しかし“思う”だけで文を重ねても仕方ありませんからここまでとしましょう。答えはいずれ出て来ます。

 

【もうひとつの衝撃】

 今回のコロナ事態に際して、もうひとつ大きな衝撃を受けたのは、日本の医療が瞬く間に崩壊の危機に瀕したことです。

 安倍首相が日本中の学校の休校を宣言した2月27日に、日本国内で確認された感染者はわずか214人でした(死者4人)。3月中旬には感染者が1000人にも満たない状態で、早くも医療崩壊の危機が叫ばれていました。そして月末になると、実際にマスクや防御服が足りなくなり、病院は戦場のようになっていると伝えられてきます。
 そのころの感染者数は、3月31日で(今から思えば)わずか2233人。同じ日に韓国は1万人近い感染者に耐え、イタリアは10万人、スペインは8万5000人と戦っていました。アメリカに至っては21万人の感染者の上に毎日2500人ずつ増えていたのです。
 それなのに日本はアメリカの1日分にも満たない数で、新しい患者の搬送先さえ見つけにくくなっているのです。医療関係者の疲弊も一段と深まっていく――。

 日本の医療体制がそこまで脆弱なものだとは思ってもみなかったので、私は非常な衝撃を受けました。いつも言っているように私は熱烈な民族主義者で、この国があらゆる面で世界の第一集団にいると信じていますから、そこまで脆い日本の姿など見たくなかったのです。

 しかし今から思えば、それも愚かな考えでした。新型コロナ事態が始まるずっと以前から日本の医療は崩壊寸前で、そのことを私は知っていたからです。

 

【コロナ以前に崩壊状態だった】

 日本の医師の過重労働については、すでに言われて久しくなります。研修医を無給で働かせるいわゆる“無給医”などは、日本の医療が限界まで来ている証みたいなものでした。

 人口1000人あたり医師の数は2.4人。OECD36ヶ国中32番目の少なさです。ギリシャの6.1人は多すぎるにしても、オーストリアの5.2人、ポルトガルの5.0人などと比べるとずいぶん見劣りします。
 今回新型コロナで大きな被害のあった国々、イタリアが4.0人、スペインが3.9人、フランスは3.2人、ドイツ4.3人、イギリス2.8人。
 アメリカは2.6人と少なめですが、無保険の国民も多く、風邪くらいでは病院に行かない国です。国民皆保険のために病院の敷居が低く、少し具合が悪いだけでかかりに来る日本とは、医師の対応する患者の数が違います。

 夜勤を含む32時間労働で、一日休んでまた32時間労働につくといった異常な勤務医の実態について、私たちは折に触れてテレビ番組などで見てきたはずです。
 昨年、臨月に破水して救急車で搬送された娘のシーナは、五つ目の病院でようやく受け入れてもらいました。平穏な時期の産婦人科ですらそんな状況ですから、病院はどこもかしこも限界に近い状況で仕事をしていたのです。
 そんなところに今回の新型コロナで日に100人、200人と患者が増え続ければ、あっという間に満杯になるのは目に見えていました。

 武漢の封鎖から相当な準備期間があったにもかかわらず十分な対応ができなかったのは、それが一朝一夕に対応できない病床の数、ICUの数、そして何よりも医師の数といった、即応できないものばかりだったからです。
(それにしてはよくやった! それにしてもよくやった!)

――と、そこまで考えて、PCR検査が少ないこととの関連で、最重要な要素について十分に考えて来なかった部署のあることに気がつきました。
 保健所です。

 

【保健所は動けない】

 今回の新型コロナ事態に際して、保健所が陥った深刻な人手不足については記事をいくらでも拾うことができます。「保健所 人手不足」でGoogle検索をかけると約30万件のヒットがあり、そのほとんどが現状に関するものです。
 それ以前、今回の感染拡大が起こる前はどうだったのかというと、現在に関するものが多すぎてなかなか探しにくいのですが、予算・人員が潤沢にあったとはとても思えません。
 なぜなら同様の公的機関が軒並み予算不足・人員不足に苦しんでいるからです。

 教員の過重労働についてはつとに知られるようになってきました。しかし定数改定を行って大幅に増員しようという動きはまったくありません。それどころかブラック体質が有名になりすぎて志望者自体が少なくなっている有様です。
 児童相談所はもはや不登校やいじめ問題に対応しません。児童虐待に特化したような組織に変質してもなお対応しきれず、子どもの命を守れなかったと非難され続けています。しかし児童福祉士一人で100件以上も抱えている状態では守れる命も守れないのです。

 今回の新型コロナ事態では「保健所で断られた」「そもそも電話が通じなかった」という話がネット上に目白押しですが、断った理由は容易に想像できます。対応できないのです。
 PCR検査の手配をするのも検体を運ぶのも保健所職員の仕事だからです。もちろんコロナ以外の仕事をおろそかにもできませんから、路上で犬が死んでいるといった話にも対応しなくてはならないのです。

 日本でPCR検査が進まない原因のひとつは間違いなくここにあります。保健所の人手不足がネックとなって、にっちもさっちもいかないのです。

 

 【健康な消費行動が決定的に健康を損なわせる】

 日本では財政改革の観点から公務員の削減、組織の合理化が繰り返し叫ばれてきました。

 加藤厚労大臣が医療費削減の観点から、全国の公立病院の数を30.2%減らそうと言ったのは今年の1月17日、まさに武漢で62名の感染者と7名の死者が出ていた時期です。
 この改革が一年早く進められていたら、日本は完全に動きが取れなくなっているところでした。

 ちなみに今回のコロナ対応で最も評価の高い国のひとつドイツは、一部でパンデミックを見越して集中治療室および病床を大幅に確保しておいたといった報道がありましたが、そうではありません。今回の直前まで、政府は病院の統廃合が十分に進んでいないと責められていたのです。改革がうまく進展しなかったことでむしろ救われました。
 ドイツもまた幸運に恵まれていたのです。医師の削減もできていなかった点では、日本よりさらに恵まれていたと言えます。

 そもそも日本の公務員数の全就労者に対する割合は5.9%でOECD36カ国中最下位です。1位ノルウェーの30.0%、2位デンマーク29.1%とは比べるべくもありませんが、下から2番目の韓国でさえ7.6%であることを考えると、いかに公務員の少ない国かは歴然としています。
 それにもかかわらずさらに減らそうとしてきた、その結果が現在の「電話が通じない」「拒否された」です。

「より少ない(税金の)支出でより多くの(行政)サービスを」
は消費行動の原則ですが、原則に忠実であることが、結局、命にかかわることもあるのです。

(この稿、終了)