大型連休も終わり、新型コロナ感染第一波も終焉に向かおうとしている。
しかしそれにしても、
PCR検査って何だったのだろう。
今ごろになって、すっかり分からなくなってしまった。
というお話。
(「ウイルスと人々」フォトACより)
【一息つけるかもしれない】
大型連休も終わり、非常事態宣言も延長されました。新規の感染者はかなり少なくなって、多くの地方自治体では5月31日を待たずして制限の大幅緩和が行われそうです。
国内が落ち着けば、海外との交易・人の行き来が再開されない限り、今回の感染拡大はひとまず終了ということになります。私の目算ではもっと小規模なもので終わるはずでしたが、新型コロナウイルスというのは日本人をもってしても御し難い、悪辣なウイルスということなのでしょう。とびぬけて高齢化率の高い日本としては、よくやったと言えるレベルなのかもしれません。
ひと段落したところで、この第一波(正確にはたぶん第三波)の総括をしておく必要があります。
【結局、PCR検査とは何だったのか、分からなくなった】
ここまで来て、私はPCR検査というのがまったくわからなくなりました。
もちろんPCR検査が、
「増やしたい遺伝子のDNA配列にくっつくことができる短いDNA(プライマー)を用意し、酵素の働きと温度を上げ下げすることで、目的の遺伝子を増やす方法です」(日本微生物研究所)
といったことは調べれば分かります。新コロナウイルスの遺伝子配列は早い段階で中国から提供されていますから、それと対照すれば新型コロナかどうかははっきりする――それは理解できます。
分からないのは、楽天が売り出そうとした検査キットのように、素人が綿棒で鼻や口腔の粘膜を擦ればいいような簡便なものだったのかという点、そして“酵素の働きと温度を上げ下げすることで、目的の遺伝子を増やす”という過程が、熟練を要するものなのか、それとも例えば1時間~2時間の研修で私でもできるようなものなのか、といった点です。
この問題について、私は答えを持っていたつもりでした。例えば次のような記事です。
そもそも、検査精度を担保するのは結構難しいのです。病原体検出マニュアルが策定されていますが、非常にまともです。完璧なマニュアルです。
これを全部理解して検査している技師さんが、ちゃんと検査をすれば、正確性はそこそこ担保される(と思う)のですが、real time PCR(RT-PCR)法は検査手技に精通していないと、相当の偽陰性が発生します。
(中略)
手技だけで無く、良い検体が取れていないと反応が正確に進まない。また、逆に、ほんのわずかな操作ミスで、何をやっても検査陽性になってしまうほどの高感度な検出方法です。
実際に手を動かしてReverseTranscription反応(RNAからcDNAを合成する逆転写反応)からRT-PCRまでの一連の流れをやったことがある人は多分みんな気づいているんじゃないかなぁと思いますが、「どんな検体も陰性にしてしまう大学院生」「どんな検体も陽性にしてしまう大学院生」と、「そこそこ正確に判定を下す大学院生」が存在する分析装置だったりします。
技師さんは割とキッチリ訓練されていますし、マニュアルが素晴らしいのでその通りにやれば、そこそこの感度特異度は担保されることになっています。ただ、検体は「生もの」なので、例え感度特異度が理論値と現場で乖離してしまっても、別段驚きませんし、誰も責められないことも知っています。
そのうちニュースに出るでしょうから、正直な値をぶっちゃけてしまえば、COVID-19のRT-PCR検査の感度は現状で30%~70%と推定されています。確定値は未公表となっています。(出典:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き」)。
前記の医師の叫び「検査なんて半分はハズレだ!」の根拠です。検査に慣れてきたり、試薬が最適化したらもう少しは感度も上昇すると思いますが……。
(2020.03.25「ある医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる現場の本音”」 )
他にも「検体採取は医師本人、または医師の管理下で他の医療従事者が行う」とか、「PCR検査の技術を確かなものにするには、少なくとも1年~2年の実務経験が必要」といた記事を読んでいましたので、それはとても難しい技術だと信じ込んでいたのです。
その難しい技術をもった医師や技師を、中国の場合は14億人中国の全土から呼び寄せることで、韓国では公衆保険医という特別な制度によって揃えることができた。しかしそれはSARSやMARSに苦しんでそこから教訓を得てきた国だからこそできることで、日本はそういうわけにはいかない。そもそも体制が整っていないのだから、少ない資源を大切に使っていかなくてはいけない――そう思っていたのです。
ところがウイルス感染がヨーロッパに広がって、やがて思わぬ疑念が持ち上がって来たのです。
【日本だけが突出して遅れている?】
例えば「検査をやりすぎて希望者が病院に殺到したためにかえって感染が広がり、医療崩壊が起こった」と言われれるイタリアで、陽性者が一気に前日の2倍以上になった3月11日の感染者数は2312でした。「希望者が殺到」していたわけですから非感染者もたくさん来ていて、仮にそのときの陽性率が20%だとすると、この日一日で1万1500人以上が検査を受けたことになります。
日本ではダイヤモンド・プリンセス問題が最大の懸案で、1日300件しかない検査能力を30件、50件と小出しに使っていた時期です。
SARS、MARSに苦しんだ中国・韓国ならまだしも、なぜイタリアでこれほど大量の検査ができたのでしょう? スペインも、フランスも、ドイツも皆同じです。新型コロナ対応に遅れを取ったと言われるアメリカでさえ、最大の感染者数を出した4月24日は45765人でした。陽性率を50%と考えても、1日で10万人近い検査があったと考えられます。
日本がいま目指している検査数は1日2万件です。しかもつい先日、NHKの有馬キャスターが厚労省の官僚に取材した話では、1日2万件分の予算を増やすという話で、実際にどこかから医師や検査技師を連れてくるという話ではありませんでした。金を出したら、あとは現場任せです。
私の経験から言えば、文科省や都道府県教委が「部活の外部指導者を増やす」とか言っても、予算をつけるだけで、人間までは探してくれない、あれと同じです。金だけ渡して、地域から1日2時間、週10時間の吹奏楽指導ができる人材を学校数分、15人探して来いと言われてもできるはずがない。
金さえ渡せば、技術はあっという間に身につく、人材は集まるというわけにはいかないのです。
【ロサンゼルスの奇跡?】
新型コロナ感染第2波、第3波がやってきても検査数2万なんてとてもではありませんが達成できそうにない、私にはそんなふうに思われます。それがなぜ、欧米では可能なのか。
おりしも昨日、ロサンゼルス市長は全市民に対してPCR検査を無料で実施すると発表しました。インターネットによる予約制ですから希望者が殺到して医療崩壊ということはないでしょう。ただしロサンゼルスの人口は1000万人。勤労者を中心に半数の500万人が希望したとして1日10万件で50日もかかります。
検査場は1000個所を上回るでしょう。一か所に5人を配置するとして5000人。50日に渡って縛るわけですから専従でなくてはいけません。また1日10万件もの検査ができるプロの検査技師を何百人も、どこかから連れて来なくてはならないのです。
ドライブスルー方式で、検体は自分で口の中の粘膜をこすり取ることで行うそうですが、最初の方で引用した、
「手技だけで無く、良い検体が取れていないと反応が正確に進まない」
「ほんのわずかな操作ミスで、何をやっても検査陽性になってしまうほどの高感度な検出方法です」
とはあまりにも雰囲気が違います。
何が違っているのか、全く謎ですが、私のようなド素人でさえ疑問に思うことを日本のマスコミがまったく問題としないこと、それもまた謎です。
(この稿、続く)