カイト・カフェ

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「千一夜」~シェヘラザードの音楽と映画たち

f:id:kite-cafe:20181206203040j:plainマティス千一夜物語』)

 今日で退職後のブログも1001日目です。 

【憧れのイスラム世界】

 イスラムという言葉を聞くと、人は何を連想するのでしょう?
 現代でしたらさしずめ「過激派」だとか「IS」だとか「テロ」といった流れ、あるいは「特別な食習慣(ハラル)」だとか「1日5回の礼拝」「モスク」といった宗教的なもの、さらに「長く伸ばしたヒゲ」や「ターバン」「女性が顔や体を隠す特殊な服装(ヒジャブ)」といった話になるのでしょうか。

 しかし私が子どものころなら間違いなく「アラビアン・ナイト千一夜物語)」でした。
 おそらく私が買ってもらった本の2番目か3番目が「アラビアンナイト」で(1番は「牛若丸」)、4歳か5歳だった私には夢のような話でした。

 シュークリームのようなターバンや、腕や足の部分が白いホオズキとしか思えないようなゆったりとした服、それをチョッキでキュッと絞る。
 女性は薄いベールで口元を隠し、大きな目がきっとこちらを見上げる。
 ネギ坊主のような屋根の宮殿やモスク、魔法のランプ、空飛ぶ絨毯――なんともエキゾチックで私の周辺とはまるで似ていませんでした。
 当時の私は(と言うより日本中が)貧乏でしたから、その圧倒的な豊かさにも憧れました。

 長じて(小学校高学年くらいだったと思うのですが)「アラビアン・ナイト」の基本構造――女性不信の王が毎夜一人ずつ娘を召し上げ翌朝には殺してしまう、それを阻止しようと美しきシェヘラザードが宮殿に上がり、毎夜ひとつずつの話を語り聞かせ、千と一夜ののちに王の不信を解く――を知るに至って、その語り部を現実の女性のようにあこがれたものです。

 話が佳境に入ったところで「続きはまた明日、明日はもっと面白くなります」と言うシェヘラザードの声は、実際の私の耳に息とともに吹き込まれるような気がしていました。

 毎日ブログ記事書きながら、私もシェヘラザードになったつもりでしばしば、「今日はここまで、明日はもっと面白い」と自分に言いきかせたりします。ずいぶん差はありますが、心持ちは同じでしょう。
 語り継いで今日で千と一日です。

 ルネッサンスシェエラザード夜話」】

 小学校を出てからは長い間「アラビアンナイト」について思い出すことはありませんでした。それが唐突に蘇ってきたのは大学を卒業するかしないかのころ、FMラジオから聞こえてきたひとつの音楽のおかげです。
 ルネッサンスというグループの「シェエラザード夜話」というアルバムです(グループとアルバム名の表記は当時のまま)。

  グループの位置づけはプログレッシブ・ロックの中のクラシカル・ロックとかシンフォニック・ロックとか呼ばれる範疇に属するものでしたが、いま改めて聞くとフュージョンというのが一番ふさわしいのかもしれません。
 バンドとしての位置づけもよく分からなくて、どの程度有名でどのくらい今に残っているのかも知らないのですが、その出自だけはよく承知しています。

 「シェエラザード夜話」のときは既に脱退していましたが、ルネッサンスはキース・レルフ(ボーカル、ギター)とジム・マッカーティ(ドラムス)という二人の偉大なアーチストによって創設されたのです。
 しかしこの二人の名前は、ルネッサンスのオリジナル・メンバーというよりは、伝説のヤードバーズの創設者として知られています。

 1960年代のバンドですから私もリアルタイムで知っていたわけではありませんが、繰り返しメンバーの入れ替わったヤードバーズの2代目ギタリストがエリック・クラプトンで、3代目がジェフ・ベック、4代目がジミー・ペイジと言えば誰でも聞いたことがあると思います。
 日本では「三大ギタリスト」と呼ばれる人たちです。

 さらにルネッサンスの創設メンバーとなるキース・レルフとジム・マッカーティが抜けると、オリジナルメンバーが一人もいなくなって「ヤードバーズ」を名乗る意味を失ったバンドは、名前も音楽性もガラッと変えて再出発します。それがレッド・ツェッペリンです。
 レッド・ツェッペリン
 こう見てくるとすごいでしょ?、

 最近クイーンがとてつもなく再評価されていますが、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルあるいはクイーンあたりの名前が出てくると私の世代で、しかし私自身はルネッサンスを聞き、ピンクフロイドやキングクリムゾン、エマーソン・レイク・アンド・パーマーなどに夢中になっていたのです。
 もっともそれも当時の一大派閥でしたが。

 

リムスキー・コルサコフ、交響組曲「シェヘラザード」】

 続いて私が夢中になったのはリムスキー・コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」です。

  ロシアの作曲家では断トツにプロコフィエフが好きなのですが、ルネッサンスの「シェヘラザード夜話」つながりで、この曲は私が最も繰り返し聞いたクラシックとなっています。

 それぞれの楽章に「海とシンドバッドの船」「カランダール王子の物語」「若い王子と王女」「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」といった表題がついていますが、そうした説明と関係なく、王の主題を表すユニゾンとシェヘラザードのバイオリンが絡まりながら進んでいく流れは、うっとりと快感です。

 基本的に海・砂漠・イスラムといったイメージは私の快感を引き出します。
 そう言えば童謡「月の砂漠」も好きですし、日本で最初にレコードとして発売された「アラビアの唄」もなんとなく好きです。
 そう考えていくと、もしかしたら私の感じ方は特異なものでなく、日本人にはある程度普遍的なものなのかもしれません。

 調べてみたら松任谷由実にも「千一夜物語」という歌があり、ここから先はまるっきりの門外漢なのですがスマホゲームの「グリムノーツ」や「モンスターストライク」にもシェヘラザードというキャラクターが出てくるみたいです。

 

アラビアン・ナイトに関わる映画】

 大人になって夢中になった「千一夜物語」にディズニー映画の「アラジン」があります。これも初公開ではなく、娘が2~3歳のころ、ビデオ・テープを買ってきて擦り切れるほど見ました。
 特にアラジンが魔法で変身して街に現れる場面の「アリ王子のお通り」が娘のお気に入りで「ア~ウ~」(という歌詞は実際にはないが)と何度も繰り返し歌ったものです。

 この「アラジン」、来年2019年には実写版で上映されるそうです。
 ちょっと見てみたいですね。