カイト・カフェ

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「黒船来航と金王朝の最期」~死ぬまでに見ておきたい二つのこと②

 今月3日、北朝鮮が水爆と思われる核実験をした翌日、北朝鮮の労働新聞は「3日の朝鮮労働党政治局常務委員会で、核実験実施などについて協議する金正恩党委員長ら」という不思議な写真を掲載しました。f:id:kite-cafe:20201217173641j:plain

 何が不思議かというとこれまで金正恩のかかわったすべての核実験・ミサイル発射は、金委員長ひとりの意志、決済によって行われたという体裁をとっていたからです。
 それが今回に限って「みんなで話し合った」という形式をとる、そうやって国民や世界に報じる、それがどういう意図なのかということです。

 そこで思い出したのは幕末のペリー来航です。
 1853年、黒船が浦賀沖にあらわれたとき、日本政府である幕府はそれまでにない国内対応をとります。ひとつは一週間を待たずして朝廷に上奏したこと、そしてわずか3週間で諸大名・幕臣アメリカ国書示し、意見を求めたことです。
 出島を通して世界情勢に詳しく、オランダ国王からの親書まで受け取っていたことで事態の重大さを深く認識していた幕府は、とてもではないがひとりで担うことはできない、そう考えたのかもしれません。
 当時の世界情勢を考えると、それはそれで正しい判断だったと思うのですが、その他の人々にはわからない。朝廷や諸大名に意見を求めたことで、尊皇派・攘夷派は勢いづき、歴史は幕府の抑制の利かないところへと進んでしまうのです。

 さて、
 6度目の核実験をことさら「指導部の意志」だと演出した金委員長、弱気になったんでしょうか、あるいは、いざというとき自分一人の責任とならぬよう布石を打ったということなのでしょうか。

北朝鮮の非核化、断念の先には】

 今月の月刊「文芸春秋」(10月号)には「米軍は核を使いたがっている―トランプ vs 金正恩チキンレースの行方」という対談が載っています。
 参加者は丹羽宇一郎日中友好協会会長)、川上高司(拓殖大学教授)、宮本悟(聖学院大学教授)の三氏です。
 その最後の場面でこんなやり取りがなされていました。
丹羽 ことここにいたっては、北朝鮮の非核化は非現実的ですね。
川上 北朝鮮に核保有を認めるには、いくつかの条件があります。(中略)これが果たされれば、実現する可能性は高いでしょう。そこで日本が考えなければならないのは、将来、いま以上に反日核武装した北朝鮮が現れるかもしれないということです。
宮本 北主導の南北統一ももはや十分有り得ますよね。アメリカも北朝鮮の言うことを呑まなければならないので、米韓合同演習は止め、最終的には在韓米軍も撤収することになる。となると韓国はどうなるか。独自のミサイル防衛システムを作るといっておきながら、まったくやっていません。(中略)こんな様子では、南主導の統一はほぼない。
川上 そういった隣国が誕生した場合にどうするか。日本は政策の大転換を迫られることになります。

 現在進行形の北朝鮮問題について、あくまでも話し合いによる解決にこだわると妥協点は、
北朝鮮ICBM開発凍結、その代わりアメリカは北朝鮮の核保有を認め、平和条約を結んで北朝鮮と相互不可侵を約束する」
 そこにしかないというお話は2週間ほど前にしました。

 それと同時に、まず韓国で「核武装」の要求が高まり、東アジア4か国のうち中・朝・韓が核保有国となると日本も追従せざるを得ない、そんなお話でした。

jp.reuters.com しかし北朝鮮の核保有を認めて政権を保証すれば、それで止まると考えたのは楽観的に過ぎたようです。北朝鮮も韓国も国家の最終目標は南北統一なのです。
 それに日韓の核武装といってもそれには大変な手間と時間がかかります。その間に北朝鮮の南進、朝鮮半島統一という方が、はるかにありそうなシナリオです。

金正恩は核ミサイルを手放すか?】

 もちろんその程度の未来予測は政府もしているはずで、「そうならないための方策」をいま盛んに練っている最中のはずです。そのために安倍総理アメリカのトランプ大統領と繰り返し電話会議をし、韓国の文大統領と話し、プーチンとも会談もしている。
 一昨日、国連安保理事会が採択した制裁決議もその成果の一つでしょう。
 しかしこれに窮した北朝鮮が白旗を掲げ、
「ごめんなさい、勘弁してください、核もミサイルも捨てます」
などと言わないことはだれの目に明らかです。

 経済制裁など2006年10月の第1回核実験以降これで9回目です。今まで何とかやってこれたのですからこれからだって何とかなります。それに日米韓と違って、国民をいくらでも犠牲にできる国ですから、車のバンパーと同じように、衝撃は国民が壊れながら吸収すればいいことです。困難がピョンヤンにまで及ぶにはまだだいぶ時間がかかるはずです。

 北朝鮮は絶対に核とミサイルを手放さない。
 親子三代30年にわたってすべてを投げ捨てて取り組んできた国家プロジェクト、アメリカと対等な勝負をするための必須のアイテム――。
 実際、水爆を搭載したICBMが完成するかもしれないとなったら、慌ててアメリカは振り向いてくれた、そしてまともに対峙しようとしている。
 未来永劫そうした関係を保つとしたら、核とミサイルは絶対に手放せない。プーチンの言うように、草を囓っても核プログラムを放棄しないのです。

【今後どうなっていくのか】

 今日本が置かれているのはそういう状況です。
 そしてこのまま3年たっても事態が変わらないというのは考えにくいところです。何かが動く。

 今回の制裁で事態が変わらないとしたらアメリカはさらなる追加制裁を求めるでしょう。それもかなり早く動きます。これ以上ときを過ごして核搭載のICBMが実戦配備されるのを待つ理由はありません。

 追加制裁でもダメなら今度は軍を動かします。
 空母3〜4隻を日本海に展開させ、韓国国内から軍人以外のアメリカ人をひきあげませます。いつでも戦争を仕掛けるというサイン――。

 そこまでやれば耐え切れなくなった金正恩が先制攻撃をかける可能性があります。そして最初のミサイルが発射された瞬間から一時間もたたないうちに、北朝鮮の無力化は実現します。
 北朝鮮の主な軍事施設はすべて米軍に把握されていますし、ミサイルは数多く持っていても発射台には限りがあります。アメリカが打ち出す最初のミサイルの電磁パルス攻撃で、北朝鮮のすべての命令系統は遮断されてしまいます(命令系統の頭と手足が切り離される斬首作戦)。
 アメリカの攻撃は、始まってわずか15分で終わるといわれています。
 米韓(あるいは日本も含む)にも多少の犠牲は出るかもしれませんが、文芸春秋誌に書かれたような「在韓米軍の撤収→北主導による南北統一」に比べればはるかに少ない犠牲で済みます。

 しかしそれよりも考えられるのは、経済制裁や軍事的圧力に耐えきれなくなった北朝鮮指導部が、すべての責任を金一族に被せて葬り去ってしまうことです。
 いまはクーデターなどとても考えられない状況ですが、圧倒的な米軍の軍事力の前にわが身が危険となれば事情も変わってきます。
 わが身一つなら諦めもつきますが、一族郎党、愛する妻や子どもまでも、金一族に捧げつく人は多くないはずです。
 あらかじめ金正恩抜きの、中国のような資本主義的自由経済を導入した社会主義国という形で政権を保証すれば、それに呼応する官僚・軍人は少なくないはずです。
 そして新政権はイランのように核を完全に放棄する。後ろ盾は中国。それが第二次朝鮮戦争に中国が参戦しない条件です。

【私たちにできること、すべきこと】

 おそらく第二次世界大戦後の日本にとって、現在が最大の危機です。私たちはことの成り行きをつぶさにいておかなければならないし、その意味を子どもたちに伝えられるようにしておかなくてはなりません。
 事態が動いたとき、無意味に怯えるのではなく、適切に恐れ、的確に対処するためには、何よりも私たちが正しく判断し対処できなければならないからです。

 気を抜かず、注視していきましょう。