カイト・カフェ

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「話し合いが良い結果をもたらすとは限らない」~最悪の未来②


 韓国の文在寅ムン・ジェイン)大統領は今月17日、就任百日目の記者会見を開いて、トランプ米大統領北朝鮮に関する選択肢を決定する前に韓国と協議し、了承を得ることを約束したと明らかにしました。  北朝鮮、核弾頭搭載のICBM兵器化が「レッドライン」=韓国大統領(ロイター2017.08.17)  

 さらに「(戦争を選択しなければならない)レッド・ラインはどこか」という記者の質問に答えて「北朝鮮大陸間弾道ミサイルICBM)に核弾頭を搭載し兵器化することだ」と答えています。

 それが事実だとすると米韓は北朝鮮の非核化を諦めたことになります。さらにその上でICBMにさえ搭載しなければよい――近中距離ミサイルや航空機に搭載するのは構わないとの考えを表明したことになります。
「米韓は『朝鮮半島非核化』の旗印を下ろすよ。しかしICBMは諦めなさい。それが話し合いのベースだ」
 そいうサインを送ったわけです。米国議会内でも最近、「非核化にこだわっていると、いつまでも話し合いが始まらないではないか」といった意見が出されるようになった、といった事情も背景にあるのでしょう。

三方一両損

 考えてみればもともと文大統領にとっては、核もICBMもどうでもいいことでした。
 大陸間弾道弾は韓国に向けて発射するものではありませんし核も絶対に韓国に向けては使わないからです。
 同胞だからではありません。ソウルをはじめとする大都市・基地・軍事拠点を叩くのにわざわざ核を使う必要はないからです。通常の長距離砲だの近距離ミサイルだのをバンバン打ち込めばそれで足ります。下手に核を使って放射能が北に流れてきても困ります。
 つまり核もICBMも韓国以外の国に向けてのものですから、いくらでも妥協できるのです。

 一方トランプ大統領にとってもICBMに搭載されない限り、核もミサイルも大した問題ではありません。アメリカ・ファーストですから米国本土さえ攻撃されなければそれでいいのです。
 もちろんグアムや沖縄の米軍基地が中距離ミサイルの射程に入りますが、それくらいは我慢できます。外交に妥協はつきものですし、いざとなれば米軍を引き上げてもいい。
 それに長期的な視点に立てば、北朝鮮の核ミサイルが北京を射程に収めているのは案外いいことなのかもしれません。東京にもそれが向いているのは気の毒ですが、他に選択肢がなければやむを得ないでしょう。
 もちろん普通の感覚では大問題になるはずの金政権の人権侵害や国際的悪行も、トランプ大統領にとっては最初から問題になりません。むしろ金正恩のような男は彼の好みなのです。その証拠に彼のツイートは金委員長を非難する言葉より誉める言葉で彩られています。

 その金委員長は、体制が保証され核保有国として地位も認められ、そのうえ制裁が解かれて必要な援助が得られるなら進んでICBMくらい諦めるでしょう(そのあといつものように隠れて開発を続けてもいい)。
 米本土は攻撃できなくてもグアムや沖縄の米軍基地、東京や大阪といった日本の大都市を射程に収める核ミサイルが整備されれば、アメリカもおいそれとは手を出せないはずです。

 三方一両損。これで米朝両軍が正面からぶつかり合う危険はなくなります。
「是非とも平和裏に話し合いで解決してもらいたいものです」
と言っていた日本のメディアの識者・専門家たちも溜飲を下げることでしょう。

【簡単で最悪な未来予想図】

 これで東アジアの一角に安定的な核保有国がひとつ誕生します。

 アメリカが金正恩独裁政権の核保有を認めたとなればイランやサウジアラビアも落ち着きません。
 アフリカや中南米独裁国家、あるいはシリアのアサド大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領も大いに勇気づけられることでしょう。しかしいずれも遠い国の話ですから今はどうでもいいこととします。

 問題は東アジアです。
 文大統領自身はどうせ韓国に対して使えない北朝鮮の核はどうでもいいと思っているかもしれませんが、韓国民は違います。つい先日の調査でも韓国の有権者の56%はわれわれも核武装すべきだと答えています。おそらく保守系と思われるこの人たちは、状況が逼迫すればすぐにでも「核武装を求める100万人集会」を立ち上げます。
 直接民主主義の色合いの強い国ですから早晩国民の願いはかなえられるでしょう。北の核保有を認めたアメリカにそれを止めることはできず、同じ理由で中ロの反対にも抵抗できます。

 かくて東アジア4か国(日中南北朝鮮)のうち3か国までもが核保有国になるわけです。
 北朝鮮と中国の核ミサイルが東京や大阪を捉え、ミサイルこそ向けないものの韓国はそれとなく核をちらつかせながら慰安婦問題や徴用工問題、竹島問題で日本に譲歩を迫ります。頼みの合衆国は「アメリカ・ファースト」です。
 そんな状態で日本はいつまで平和憲法非核三原則を守り切れるのか。

 かつて小沢一郎氏は「日本も改憲をして軍隊の持てる『普通の国』にしよう」という「普通の国」論を展開しました。
 私はそのとき、この「気高く、美しく、平和な日本」を「普通の国」されてたまるかと息巻いて今もそう考えていますが、国破れて山河だけが残っても困ります。

 日本には北朝鮮との間に拉致問題という重要な案件があります。  政府もよもやICBMの放棄と引き換えに金王朝の承認と保全、核の温存などという話をウカウカと座視したりはしないと思いますが、私たちも、
「武力解決に走るのではなく、是非とも平和裏に話し合いで解決してほしいですねぇ」
などとのんきなことは言っておらず、真剣に行く末を考えていかなければならないはずです。