「いじめの国のドラえもん」1〜マイレジューム

 いじめの加害者は右手に正義の剣を掲げています。その意味するところは「他人に迷惑を変える者は許さない」「人に嫌な思いをさせる者は許さない」「仲間を裏切る者は許さない」です。もちろんその「他人」「人」「仲間」はしばしば彼自身です。

 しかし同時に、左手には憎悪の剣も隠し持っています。その本質は“被害者意識”“憤怒”“嫉妬”“絶望”“苛立ち”です。

 しかし時、本人も自らの左手に気づいていません。汝の左手のなすことを右手に知らしむべからず。自分は正義のために“彼”を叩いているのだと思い込んでいます。左手が疼いて憎悪の剣が動き出すまでは・・・。

 

 かつて文科省は「だれでもいじめの被害者になりうる、だれでも加害者になりうる」と言いました。それは間違いではありません。しかしなり易さにはおのずと差はあるでしょう。

ジャイアン」をいじめの標的にするのはなかなか困難です。出木杉君もある意味付け入るスキがありません。しずかちゃんもいじめの標的にするのは今のままではムリでしょう。

 これといって欠点のない出木杉君やしずかちゃんを何の理由もなく、あるいは「頭がいい」「かわいい」というだけの理由でいじめたりしたら、クラスの内外からファンが殺到しそうです。ジャイアンを含めて、この三人をいじめの標的にしようとしたら、よほど丁寧な下準備が必要です。

 出木杉君やしずかちゃんはまた、いじめの加害者にもなりにくいはずです。「大長編ドラえもん」ではしばしばのび太とともに戦う子たちですから正義の剣を振りかざすことはあります。しかし彼らの左手には憎悪の剣はありません。家庭に恵まれ仲間に恵まれ、学校内にかっことしたい場所のある子は、憎悪の剣を持ちにくいのです。

 しかしのび太はそうではありません。欠点が多く、しばしば怠けたりズルをしたり、つまらない夢想に他人を巻き込んで迷惑をかけたり、ねたんだりします。もしかしたらドラえもんという後見がいることで、嫉妬の対象にもなることもあるかもしれません。見方によれば本当に困った子ですが、アニメ「ドラえもん」にはのび太以上に困った子、嫌な子がいます。スネ夫です。

 とにかく金持ちで自慢する、他人を小バカにする、しばしば平気でウソをつきずるいことをする、仲間を裏切る、みじめなほど卑怯……。もちろん無類の寂しがり屋で金持ちではあっても家庭的に恵まれていません。しかしそんなことを知る子はいません。スネ夫こそ最もいじめられやすいタイプで、現実のクラスにいたらあっという間に仲間外れにされそうな子です。

 ただしマンガの中のスネ夫はそうはなりません。彼は社会(子ども社会)がよく見えていて、常にジャイアンという守護者を身近に引き寄せ、うまく立ち回っているからです。ジャイアンがいるからこそ、いつまでも生意気で身勝手でいられるとも言えるのです。

 ではスネ夫はどうやってジャイアンを味方につけることに成功したのか。

 それはこれまでにスネ夫のしてきたことを見ればわかります。

                                 (この稿、続く)