カイト・カフェ

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「それは本質的な問題ではないのかもしれない」〜閑話休題③

 ビルの杭打ちというのは様々な方法があるようですが、標準的な工法は「杭より10cmほど大きい穴をドリルで開け、その中に杭を差し込んでコンクリートを流し込み、固める」というものです。その際、地中の柔らかい層を掘っている最中と支持層と呼ばれる堅牢な層に進んだときとではドリルにかかる抵抗が異なってきます。それを電気的に採集して記録に残したものが今回問題となっているデータなのです。
 そのデータが「ない」というのは、

  1.  記録開始スイッチの押し忘れや記録紙のセット忘れ。
  2.  記録紙の破損・紛失。
  3.  データを記録する機械の不良。
  4. 大きな石があるなど地中の障害が見つかった場合。
  5. 波形が弱いなど理想的な記録が取れなかった場合。

といった事情があるあるようなのです。
(ただし横浜市のマンションの場合は、杭自体の先端に鋼の羽根がついていてそれで掘り進むという特殊な工法でしたから、杭の長さが支持層に達しないと大きな電流の変化は採集できません。そういう場合もあります)

 一昨日、コメント欄で「たてやん」さんが紹介してくださったサイトでは、
「杭を打つときは、必ず電流計を見ながら、かつ、エンジンの動きでも軟弱地盤を進行中なのか、支持地盤に突き当たったのかはわかるので、この杭が支持地盤まで届いたかどうかは、記録紙など関係なくわかります」
ということですから、現場では記録紙など重要ではないのです。大切なのは確かに杭は打ちこまれたかということであって、記録に残るかどうかは二の次です。
 電流計のスイッチを入れ忘れることはないでしょうが、プリンターの方は気の回らないこともあるかもしれません。建設現場は「雨が降ったからやめましょう」というわけにいきませんからそうとうな悪天候でも行われます。記録紙が汚れて見えないということもあるでしょう。また、報告書の整理はすべての作業が終わってからなので、その間、記録紙は責任者によって持ち歩かれます。そのために紛失することもああるかもしれません。
 いずれにしろきちんと仕事をしたという事実の前には、記録紙など大した問題ではないという雰囲気が現場には会ったのでしょう。しかし報告書にデータがないというわけにはいきませんから記録紙がなければ改ざんするだけです。
 「60本のうち3本」「90本のうち2本」といった中途半端な改ざんは、そうした事情から発生したと考えるのが一番わかりやすいものです。

 結局この問題は、「くい打ちの際はしっかりデータが残るようにプリンタの電源や用紙の入れ忘れに注意し、終わったら記録紙はきちんと保管するようにしなさい、雨や風の日は特に気をつけましょう。自信がないならバックアップデータが残るように別の機械を取り付けます。けれどいろいろ事情はありますから、それでもデータが残らなかったらデータ欠損で報告すればいいですよ。さらにその上で問題があれば一緒に考えましょう」という程度のものです。
 マスコミは連日これをトップニュース、セカンドニュースで報じてきましたが、振り上げた拳をどんなふうに下すのか、私は注意深く見ていきたいと思っています。

*追補
 ただし横浜のマンションは違います。横浜の場合、4棟で打たれたくい(計473本)のうち、データの改ざんされたものは38本。傾いた一棟ではこのうち8本が固い地盤まで届いておらず、実際に傾き始めています。
 可能性は二つしかありません。ひとつは現場で実際に杭打ちをした関係者全員が共謀して不正を働いたということ。もうひとつはこのマンションで使われた特殊な工法(旭化成建材の開発したものだそうです)、またはマンションの建てられた地盤が、「この杭が支持地盤まで届いたかどうかは、記録紙など関係なくわかります」といった関係者の自信を欺く何かを起こしていたということです。この点も注意深く見ていきたいと思います。