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「三行半(みくだりはん)」~江戸時代の離婚の作法。しかし女性は強かったという話

 現代にあって結婚することの意味は何だろうと考えているうちに、突然「三行半」のことを思い出しました。「みくだりはん」と読み、江戸時代の離縁状のことを言います。基本的に夫が妻に一方的に出すもので、当時、女性には離婚請求権はありませんでした。

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 3行と半分で何を書くかというと、

  1. 1行目で「離婚するぞ」と宣言し、
  2. 2行目で離婚理由、
  3. 残りの1行半で「以後一切おまえのことはかまわないから好きにしていい」といった内容を書きます。
  4. 日付と署名は3行半の外枠です。

 実際には3行半では書ききれず数行にわたる場合もあったようです。また中には字の書けない夫が紙に線を3本と半分描いて済ませたという話もあり、逆に妻が字の読めない場合も3行半で文章が書いてあれば何のことか理解できたでのしょう。3行半という規程はけっこう便利だったみたいです。

 夫から妻への一方的な話ですので、男尊女卑の典型みたいですこぶる評判が悪いのですが、話はそう単純ではなく以下の場合は三行半を執行できないことになっていました。

  1. 妻が妊娠している場合(出産まで)
  2. 妻が実家から持ってきたものを、たとえ紙一枚であろうとも、夫が使ってしまった場合
  3. 夫婦で一緒に築いてきた財産を夫が使ってしまった場合

 そうなると離婚のハードルはかなり高くなります。実際にはそうとうに困難な状況と言えるでしょう。

 また、「三行半をたたきつける」という言葉があるので、夫がいきなり上から目線で投げつけ、妻は静かに引き下がるといった印象がありますが、これも違います。
 たたきつけられたとき、下を向いてニンマリ笑っている妻はたくさんいたはずです。なぜならそれがあって初めて再婚もできるからです。
「三行半」の最後にあった「おまえの好きにしていい」というのはそういう意味で、もらった三行半はいわば独身証明書みたいなものですから大切に保管されました。

 さらにそうした事情のため、例えばドメスティック・バイオレンスに苦しむ女性などは「是が非でも書いてもらいたい三行半」ということにもなります。そしてそこから、とんでもないアイデアが浮かびます。
 それは結婚するときの条件として、前もって「三行半」を書いてもらい妻が隠し持っているというやり方です。
 それさえ持っていれば、いざというときには空身で出奔できます。これで形勢は完全に逆転です。離婚の主導権は完璧に妻の側にあります。

 江戸時代も現代も、日本の女性は常にしたたかでした。名を捨てて実をとる、それが日本女性のやり方です。レディ・ファーストとかいっておだてられ、そのじつ財布はがっちり夫に握られているアメリカ女性など、ほんとうに愚かなものです。

 さて、結婚前に「三行半」を取っておくという知恵に気づかなかった妻、あるいは何らかの事情で取れなかった妻が夫の意に反して離婚したいと思ったら、これはかなりやっかいな問題になります。基本的に説得して「三行半」を書いてもらうしかないからです。

 ただしもちろんそこにも救済策があり、女性からの離婚ができないわけではありませんでした。それが縁切り寺(または駆け込み寺)と呼ばれた、離婚調停に関する特権を持った寺院です。ここに駆け込めばいいのです。

 ただし縁切り寺は全国に二箇所(鎌倉の東慶寺と群馬の満徳寺)しかありませんし、やっかいなルールもあります。じつは「縁切り寺への正しい駆け込み方」というのは私のもっとも得意な話のひとつですが、紙面に余裕がなくなったので別の機会にしたいと思います。