カイト・カフェ

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「ほめられし」~死刑囚・島秋人の歌と教育

「ほめられし ひとつのことのうれしかり いのち愛しむ 夜のおもひに」

 この歌を詠んだ島秋人(本名・中村覚)は、貧困、病弱、母親の死、そして学校にも通えぬ境遇の中で16歳から放浪生活。ついに25歳の時、飢えから強盗殺人を犯し、死刑囚になります。

 島は獄中で開高健の本を読み、突然絵を描きたいと思います。そしてひとつのことを思い出すのです。それは中学生の時、美術の先生から「絵は下手だが、構図がいい」と生まれて初めて褒められたことです。すぐに恩師に感謝の手紙を出すと、返信の手紙に先生の奥様の短歌三首が添えられていました。それを機に新聞の歌壇に投稿。その選者に歌人の窪田空穂がいて、島の新しい恩師となります。
 彼はその後、歌人として次々と作品を発表しましたが、1967年、33歳で死刑を執行されました。『遺愛集』は彼の残した唯一の歌集です。

 この話はかなり有名なものですから、一度はどこかで聞いたことがあるかもしれません。

 人は結局誉められたいのだ。誉められることに生きる活力も生まれ、生きる喜びも生まれると、そんなことを思わせる話です。

 どんな不良少年も非行少年もみな同じで、彼らは普通の児童生徒として誉められることが少ないばかりに、「おまえ、強いな」とか「おめえ、カッキーナ(かっこいいな)」とかいう形で誉めてもらえる世界に足を突っ込んだだけなのです。チャンスと能力さえあれば、いつだってやり直しのできる子たちです。

 拗ねた子、ひがみきった子、つけるべき力をつけないまま成長してきてしまった子、そうした子たちを元の世界に引き戻して誉められるまでに育てるのは容易ではありませんが、彼らの本当の幸せはこちらの世界で誉められることだと、常に私たちは信じていなければなりません。

 そしてそれだけが、子どものについて信じられる唯一のことだと私は思っています。

 繰り返しますが、彼らを引き戻すのは本当に大変なことなのですが・・・。