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「子どもたちに『文化の日』を教える」~明日は祝日だけど何の日か分かる?

 明日は文化の日。しかし何の日なのか、なぜ11月3日なのか、
 知らないでいることも多い。
 子どもたちはもちろん親たちも知らない場合がある。
 だったら調べて、ひとこと教えてあげよう。
という話。(写真:フォトAC)

【子どもたちに祝日の意味を教えておけばよかった】

 記憶力に難があって昔のことなかなか思い出せず、それだけに前向きな人生を送ってきました。くよくよ昔のことを考えたりしないのです(思い出せないから)。
 
 ところがすでに退職した仕事のこととなると、なぜかとつぜん思い出して、いらだたしい気持ちになることが少なくありません。私だって多少の良い仕事もしてきたはずなのに、思い出すことといったら人に迷惑をかけた話とか、児童生徒に対してああしておけば良かった、こうしておけば良かったといった後悔ばかりなのです。いまさら謝りに行くほどのこともないのですが、やはり気持ちの良いものではありません。
 
 そのひとつは、祝日の前日、せっかくの記念日のだというのに、その意味や由来に全く触れずに子どもを帰宅させてしまったことです。道徳の指導内容にも「優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献するとともに,日本人としての自覚をもって国を愛し,国家及び社会の形成者として,その発展に努めること」とあるじゃないですか。祝日の意味や意義を知るというのは、この国の理念や伝統、価値観を学ぶ上で、とても有効だったはずです。それを私が「指導内容その日暮らし」の無計画教師なので、祝日のゴールラインを越えてインゴール内に駆け込むのが精いっぱいで、前もって調べておいて気の利いた説明をするなんて、とてもではありませんができる状況ではなかったのです。
 しかし日本中の学校が休みになる日。それだけ重大な日だというのに、子どもたちが「何が何だかわからないけど休んでいる」状態ではやはりマズイ。何かひとこと添えて送り出すべきだったと、今また後悔の気持ちが沸き起こってきます。

文化の日

 さて明日は「文化の日」。祝日法国民の祝日に関する法律)には、「自由と平和を愛し、文化をすすめることを趣旨とする」とあります。でもよく分かりませんよね。
 日本国憲法の公布された日だそうですが、半年後の5月3日の施行日が憲法記念日として祝日になっています。いくら日本国憲法が大事だとはいえ、同じ事柄について2日の祝日は必要ないでしょう。もしかしたらそこには人に言えない裏事情があるのかもしれません。
 
 そこで調べてみると、11月3日は明治天皇の誕生日。明治時代には今上天皇の誕生日を意味する「天長節」と呼ばれ、亡くなられてからは「明治節」と名称を変えてそのまま引き継がれた祝日だったのです。第二次大戦後、軍国主義の復活を怖れたGHQは「明治節」を廃止。しかし米軍撤収ののち、「明治節」を必要と考える人たちが「文化の日」と名前を変えて復活させたのだと、そんなふうに思っていたのです。
 ところが事情はまったく違っていました。

【「文化の日」制定の事情】

 日本国憲法の公布日はもともと11月1日が予定されていたそうです。ところが考えてみると、周知期間を半年置くと施行日は5月1日。メーデーと重なってしまいます。労働者の日と新憲法施行日が一緒では、そこに何らかのメッセージを読み取る人たちが出てきてしまう可能性がある、そこで施行日を5月3日と決め、逆算して11月3日が公布日になったようなのです。この段階で旧「明治節」とかぶることには、だれも頓着しなかったみたいです。
 
 その11月3日を、新しい憲法の記念日(憲法記念日)にしたいと強く主張する人たちがいました。作家で政治家でもあった山本有三(本名:勇造)たちの仲間です。特に参議院文化委員長として祝日法制定の際に中心的役割を担った山本は、こんな言い方で強くこだわりました。
憲法において、如何なる国もまだやつたことのない戦争放棄ということを宣言した重大な日でありまして、日本としては、この日は忘れ難い日なので、是非ともこの日は残したい」

 しかし11月3日は旧明治節、旧天長節なのです。GHQはこの日だけは絶対にダメだと釘を刺し、衆議院も早々に5月3日を憲法記念日と決めてしまったので、山本たちは孤立します。そこへGHQから「別の名前の祝日なら11月3日も可能である」と連絡が入り、急遽、別の名前が考えられます。引き続き山本の話を聞くと、
「そうして戦争放棄をしたということは、全く軍国主義でなくなり、又本当に平和を愛する建前から、あの宣言をしておるのでありますから、この日をそういう意味で、『自由と平和を愛し、文化をすすめる。』、そういう『文化の日』ということに我々は決めたわけなのです」
 だから、「自由と平和を愛し、文化をすすめることを趣旨とする」わけなのです。

文化の日の行事】

 文化の日の最大の行事は皇居で行われる文化勲章親授式天皇から直接、勲章が授与される儀式)です。
 文化勲章は日本で最高に栄誉ある勲章で、受賞するにはノーベル賞と同じ重要な要件があります。それは「長生きをする」ということです。その人の成し遂げた成果が決してひっくり返されないこと、その人が決して不名誉なことをして勲章(賞)の名を汚さないこと、この2点が確実になるためには相当な年月が必要だということでしょう。
 今年は7名の受賞者がいますが、私の知っているのはJリーグの川淵三郎元チェアマン、作家の塩野七生さん、そして狂言野村万作さんの3名だけです。(*1
 子どもたちに訊いても受賞者の誰一人知らないことでしょう。しかし知っていることが大事なのではなく、そんなことがあったと覚えておくことが大事なのです。簡単に紹介するとか、「ニュース見ておいて」と一言促すとか、そんな方法で注意を向けておけば、クラスに一人か二人は言われた通りにして、遠いいつか、自分もあんなふうに皇居の一室で勲章をもらうのだと、決心する子も出てこないとも限りません。
 
 文化の日、全国の美術館や博物館の中には、入館料を無料にしたり様々な催し物を開催したりするところもあります。明日に向けて確認しておくのも良いでしょう。
 また先月1日から今月26日までの予定で、文化庁主催の「芸術祭」(*2)が行われています。こちらも注目に値します。
 さらに市町村、あるいは地区単位で文化祭が行われている場合もあります。子どもたちに一声かけてみるのもいいでしょう。

*1 
《2023年文化勲章受章者》
* 井茂圭洞(いしげ・けいどう、本名井茂雅吉=いしげ・まさきち)書家。独創性豊かな書風で活躍を続け、後進の育成にも尽力した。87歳。
* 岩井克人(いわい・かつひと)東京大名誉教授。資本主義経済システムの本質を理論的に解明する研究に多大な貢献をした。76歳。
* 川淵三郎(かわぶち・さぶろう)元日本サッカー協会会長。Jリーグ創設や日本でのサッカーワールドカップ開催に尽力した。86歳。
* 塩野七生(しおの・ななみ)作家。15年かけて刊行した「ローマ人の物語」では、史料実証主義を超越した刺激的な物語を展開。86歳。
* 谷口維紹(たにぐち・ただつぐ)東京大名誉教授。サイトカインと総称される免疫調節分子群の研究分野で世界をリード。75歳。
* 玉尾皓平(たまお・こうへい)京都大名誉教授。触媒的クロスカップリング反応という一大研究分野の礎となる発見をした。80歳。
* 野村万作(のむら・まんさく、本名野村二朗=のむら・じろう)能楽師狂言の高度な技法を体得し、その枠にとらわれない活躍も。92歳。

*2 クリックすればチラシの中身が見えます。