カイト・カフェ

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「CM :才能の満漢全席」~素晴らしきネット社会の人生④

 わずか数十秒のためにとんでもない資金が投入されるCMの世界、
 それだけに大量の“超一流”が集まってくる。
 その世界に心寄せ、彼らの生き方を見てみよう、
 何かわかってくるかもしれない。

 という話。

【古川琴音の発見者たち】

 サントリーアルコール飲料「ほろよい」のコマーシャル、「ほろよい飲んで、なにしよう?」編(2022年2月6日~ )、「ほろよいで話そ。30s」 / 「ほろよいで話そ。 春・15s」(2023年4月~ )に出ている古川琴音さんは、控えめに言っても美人ではないと思います。可愛いというわけでもない、控えめに言っても・・・。しかしあの圧倒的な妖しさは何なのでしょう? 大河ドラマ「どうする家康」でも武田家の間者を演じていますが、立っているだけでも醸し出される不気味さは、この人でなくてはできない類のものです。まだ20代半ばの子どもですよ?

 世の中には、写真や映像には決して映らない魔力を振りまいて生きている人がいます。昔、岸田今日子という女優さんに至近距離であった時は、発する魔力で跳ね飛ばされそうになりましたし、山東ルシアという今や名前を言っても思い出す人の方が少ないだろうタレントさんは、300m先から分かるほどの輝きに包まれていました。ですから古川琴音さんの妖しい魅力も、直接会えば一発で分かるものかもしれませんが、そうでないとしたら彼女の発見者はとんでもない目利きということになります。
 失礼ながらあの程度の容貌の子はどこの学校へ行ったって必ず見つかります。もちろん見かけだけで、古川さんほどの才能を持った子がいるわけではありません。それを見つけてくる人がいるから、この世界も大変です。

【才能の満漢全席】

 昨年の2月、「ほろよい飲んで、なにしよう?」のコマーシャルが始まった時、最初にびっくりしたのは音楽でした。何か喉の変なところから空気が漏れているような優しい声が、とても複雑な曲をずっと歌っている――さっそく調べるとこれは2011年にtofubeatsというグループがリリースのした「水星」と、1994年に小沢健二スチャダラパーが同時リリースした「今夜はブギー・バック」を組み合わせてアレンジした曲で、池田智子という人とTENDRE(という人?)が歌っているようなのです。「水星」も「今夜はブギー・バック」ももはやスタンダード・ナンバーで、たくさんの歌手がカバーしていると資料にはありました。私は2曲とも初めてです。
 調べついでにたくさんのカバー演奏を聞きましたが、確かに両方とも名曲です。しかしその名曲をふたつ組み合わせてアレンジしようと思いついた人がすごい。実際にやった人がすごい。選ばれた歌手たちがすごい――。
 そう思って改めてこのコマーシャルを見ると、四季を意識した六つの場面はそれぞれ色調を変え、小道具を変え、主人公の表情を変えてさまざまな才能に支えられて進んでいきます。

 テレビ撮影の現場で、時間当たりの費用が最も高額なのはコマーシャルでしょう。わずか30秒、20秒のためにたいへんな資材が投入されるわけですから。
 そこには全体の企画をする人がいて、場所や機材や人を押さえる人がいて、デッサンを欠く人がいてそのデッサンに基づいてセットをつくる人がいて、小道具をとんでもなく微細なものも含めて用意する人がいて、背景を用意する人がいて、猫を飼育し演技ができるように調教する人がいる、そうしてできた実写画面を、今度はアニメーションにする人がいる――そのひとりひとりがおそらく“超”をつけていいような一流なのです。
 大手広告会社のつくるCMというのはすべて一流ぞろいなのでしょうが、このサントリー「ほろよい」のいいところは、そうした制作者たちの姿や仕事ぶりが見えやすいところです。

【たくさんの仕事に心寄せたい】

 私はもうオジイで、今生に次の職業人生があるわけではありません。ですから余裕で「みなさん、すごいなあ」とか言っていられますが、これが18歳~二十歳だったら落ち着かないでしょうね。
 自分より数コだけ年上の人たちが広告の最前線で活躍しているのです。もちろん18歳の私が何者かであれば問題ないのですが、思い出せばそのころの私は何者でもありませんでした。
 曲を作る人、アレンジする人、コマーシャル全体のデザインを書く人、アニメーションをつくる人――そのどれをとってもなれそうにないし、そのくせ同時に二つも三つもやってみたいし、何某かの存在でありたいのです。
 
 やはりもっと子どものうちから世の中を見ておくべきでした。
 今の学校や先生たちは忙しいので安易に勧められないのですが、20年前くらいの私を唆して、総合的な学習の時間などを使い、学校のCMなどをつくったら面白いだろうな、などと思いました。
 本来、学校教育なんてこんな風にあれこれ思いついて、面白おかしくやればいいものだったと、これも今、思い出したことです。 
 (この稿、続く)

《付録》メイキング映像

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(写真:フォトAC)