カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「進んでも遅れてもいない。ただ別の世界を生きているだけ」~若者の進みすぎた性生活と、あまりにも遅れた若者の話④  

 現代の若者にとって、恋愛も娯楽の一形式、
 選ぶ人もいれば、選ばない人もいる。
 恋愛なしでも人生設計はできるのだから、
 他人の恋バナも寝室事情も気にならない。
 という話。(写真:フォトAC)

【恋愛も、娯楽のひとつにすぎなくなった】

 かつて性と暴力は小説や映画の2大テーマでした。そんなことをしたら人生が終わると分かっていながら、なぜ人は犯罪に走ってしまうのか、なぜ人は性のために身を持ち崩してしまうのか――実際に試してみるわけにはいかないので小説や映画の中で体験し、それを作品として提供したのです。読み手や観客は作品の中で作家と同じ体験をすることによって、生きる意味を知ろうとしました。
 
 しかし今や性の方は、謎でも何でもありません。ネットで探せばいくらでも出てくるつまらないテーマです。したがって現在、映画や配信動画に年齢制限がかかっているとしたら九分九厘、暴力の問題で、肌の露出や性的な場面が理由になることもないわけではありませんが、付随的なものであって性そのものを扱う作品はほとんどなくなりました。
 
 恋愛とは何か――。それは「好意」と「性欲」と「依存心」によってふたりの人間が結びつく状況だと私は思っています。
 大人がむやみに恋愛をしないのは、社会人となって何年か過ごすうちに、依存心が薄れ、性欲もまた満たされてしまうからです。好意だけでは恋愛の激しさが再現できないので、穏やかな関係のみが残ると、そんなふうに思ってきました。
 しかし現代の若者たちは、大人になる前からネットによって「性欲」が満たされていて、恋愛をする心は最初から片肺飛行。さらに2007年にiPhoneが発売され、2008年にandroid端末が発売されると24時間いつでもどこでも、誰かあるいは何かと繋がっていられるようになり、若者は孤独ですらなくなって依存心も湧きにくくなってきます。
 恋愛の必要性はさらになくなり、やがて草食系男子が生れてくる。恋愛はもはや趣味・娯楽のひとつにすぎないので、選ばない人も出てくるのです。

【恋愛の価値は下がっても、結婚の価値は下がらない】

 しばらく前に「日本人男性の5人にひとり、女性の7人にひとりが生涯独身のまま過ごす」という数字が発表されて大きな話題となりました。昨年の統計ではそれが男性の4人にひとり(25・7%)、女性の6人にひとり(16・4%)まで上がったようです。わずか40年前の1980年には男性2・6%、女性も4・5%だったそうですから、とんでもない増加です(数字はいずれも2022.06.11 読売新聞「日本人の結婚への関心、依然高いが…男性25%・女性16%が『生涯未婚』」より)。

 しかし視点を変えると、男性の75%、女性の85%近くは今も生涯に一度は結婚をしているのです。「20代の若者の『デート経験なし』は4割以上」、「18-34歳の独身男性の『性体験なし』率は44・2%、女性は49・4%」といった悲惨な状況がありながらも。
 また、先に引用した読売新聞の記事によると、
 OECD経済協力開発機構)加盟の7か国を対象とした5年ごとの意識調査で、18年度に「結婚したほうがよい」とした割合は日本が50・9%だった。
 これは
米国(52・7%)に次いで高く、英国(47・4%)、韓国(46・1%)、ドイツ(45・9%)、フランス(41・5%)などを上回った。逆に「結婚しない方がよい」は日本が35・4%で、7か国中最も低かった。
というのです。
 悪くありません。恋愛の価値は下がりましたが、結婚の価値はまだ有効なのです。

【10年前よりも、むしろ結婚しやすくなっている】

 さらに1980年代、恋愛至上主義のバブル世代が見合いや相談所といった既存の結婚システムを破壊し尽くした後、長らく不在だった男女を結び付ける仕組みは、AIを使ったマッチングアプリという形で今まさに再構築されようとしています。
 恋愛は娯楽のひとつになってひとまず結婚から切り離されていますから、恋愛抜き、交際抜きで、条件を示し合い・詰め合って行う結婚も可能になりつつあるのです。
 
 昭和も第二次世界大戦前まで遡ると、結婚式の当日まで相手の顔も見たことがなかったという夫婦もけっこういました。さらに昔の大名や貴族の政略結婚となれば、相手を見ずに婚姻関係を結ぶのは当たり前です。しかしそれで不幸せが確定したわけでもありません。
 AIを信じるわけではありませんが、結婚の意思が明らかな二人が、条件を出し合い、状況を見せ合って一緒になれば、ある意味で最も間違いの少ない夫婦ができ上る、そんなふうに考えることもできます。

【進んでも遅れてもいない。ただ別の世界を生きているだけ】

 恋愛弱者はすでに弱者ではありません。なぜなら最初から勝負に参加していないからです。別に逃げているわけではありません。興味がないだけです。
 恋愛なんかしなくたって結婚はできるのですから、人生設計の上で何の問題もありません。
 
 かくして若者の中でも恋愛を趣味とする人々は恋を語り、藤田ニコルのような若いタレントさんが、
「ちょっとイチャイチャして、背中合わせで寝たい。別々のベッドで寝るのは嫌なので、離れはするけど手はつないでいたい。むしろ寝るまでおしりを触ってもらうか、手をつないでいてほしい」
などと平気で言うことができるようになります。
 それは特別なことではなく、次の話題に移って松本人志さんが「オレもギャグのひとつくらいは欲しい」というのと同じくらいに、どうでもいい話なのです。
(この稿、終了)
(参考)kite-cafe.hatenablog.com