安倍晋三元総理大臣の国葬が行われた。
それなりに尊敬され慕われた人なのだから、
むしろ国葬にしない方が良かったのかもしれない。
ただ、中にひとつだけ、良いこともあった。
という話。
(写真:フォトAC)
【やっぱりやめておけばよかったかな】
安倍晋三氏の国葬が賛否両論はげしい中で行われました。
屋外で気勢を上げる反対派の激しいシュプレヒコールを思えば、とてもではありませんが「しめやかに」と言うわけにもいきませんが、一般献花の列も相当に長く多く、まさに国論を二分してという中での挙行でした。この国では久しく見ることのなかった風景です。
前にも申し上げましたが私は安倍氏に対して相反する二つの感情を持っていました。教育政策については一致できるいかなる点もなく、いわば不倶戴天の敵ですが、他の点、特に外交政策では非常に気持ちの沿う点も多く、人間的にはむしろ好きと言っていいほどです。ですから国葬に関しては最初、私の心の中でも賛否両論、してもいいししなくてもいいという感じだったのです。
ただ初めて国葬の話を聞いた時はそんな私にも違和感がありました。
安倍氏以前の内閣の最長記録を持っていた佐藤栄作氏は、ノーベル賞受賞者でもあるにも関わらず国葬にはなりませんでした。そのことを考えるといかに新記録樹立者とはいえ、いまだ現役の、もしかしたら第三次内閣も考えられた安倍氏は、まだまだ生々しく、国葬にするには十分熟していない、そんな感じもあったのです。
ただ事件の衝撃は大きく、事件当日早くもインドのモディ首相が「インドは明日一日、喪に服する」とか言い出し、各国首脳が次々と来日し、トランプ前大統領まで私人として参列するかもしれないといった雰囲気で、「ここまで話が大きくなってしまうと対外的にはやはり国葬かな」と自らの違和感を引っ込めてしまったのです。
そして三か月弱。
政府・自民党の多くの人々が同じことを考えているのだと思いますが、
“やっぱ、やめとけばよかったかな?”
それが一昨日までの私の気持ちでした。
【予想外のさまざまなこと】
まさか“安倍氏と旧統一教会の深い関係”といった話が出てくるとは思いませんでしたし、最初から16億円もかかると分かっていたらウカウカと賛成する気にもならなかったでしょう。しかし今は政治家と旧統一教会の癒着とか言ってマスコミも大騒ぎですが、過去40年近く、メディアは知っていながら問題としてきませんでしたし、16億円の話も詳しい人なら「外国の要人が大挙してくる以上、そのくらいかかるのは常識だろう」というレベルの話かもしれません。
途中でエリザベ女王の国葬が入り、「日本の元首相の国葬」がすっかり霞んだ感じになったことも、まるきり予想できないことでした。首脳級の来賓が大勢来ると思っていたのに意外と大したこともなかったのは、2週続きの国葬にはそう簡単に足を運べないという事情もあったのかもしれません。
いずれにしろ国葬の決定は早すぎて実施は遅すぎました。それなりに尊敬され慕われた人なのだから、むしろ国葬にしない方が良かったのかもしれません。つまらぬところでミソをつけました。
【最後の残ったただひとつの良いこと】
ただそれもこれもすでに終わってしまったことです。
国論を二分とか海外メディアでは深い分断などと言っていますが、これを機に野党が力を盛り返して明日にも政権交代といった話にはならないでしょう。政治家たるもの、あとに回せるものを混乱の最中に決めてはならないという今回の経験を教訓に、岸田内閣には政権運営を進めてもらうしかありません。
今回の国葬でほんとうに良かったことはひとつだけ。
菅前総理が友人代表として語った追悼の辞の見事さです。内容も語り口も、菅さんらしい落ち着いた、誠意のあふれるものでした。私は能弁でしゃべりすぎる感じがあるので、学ぶべき点も多かったと思いました。