カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「事故も病気も今はダメだ」~コロナ感染でなくても、医者にかかることが迷惑になる

 岡江久美子さんや志村けんさん、そのほか無名の人々、
 その死の様相は、今までにない重苦しさを私たちにもたらす。
 世界はすっかり変わってしまった。
 今は普通の病気になることも事故に遭うことも、
 死ぬことも自重しなくてはいけない。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200430083134j:plain(「救急車」フォトACより)

【新型コロナ感染の残酷】

 岡江久美子さんが亡くなられて自宅に戻るとき、その遺骨はご主人の大和田獏さんに直接渡されるのではなく、花束とともに玄関前に置かれ、それをあとから獏さんが回収するという形で行われました。玄関を出てきた獏さんは静かに骨箱を抱えると、報道陣に一言挨拶をして中に入って行かれました。

 一瞬、何が起ったのか分からなかったのですが、考えてみたら獏さん自身が久美子さんの濃厚接触者で、お骨を直接受け取るのを避けたのです。おそらく大和田家の方から申し出だったのでしょう。
 玄関先に置き去りにされる遺骨・・・それだけでも胸が詰まりそうです。

 しばらく前にニュースで見たのは、ダイヤモンド・プリンセス船上で感染が明らかになり、それぞれ別の病院に入院していた夫婦が、妻の方が先に退院して夫の待つ病院に行くと、ガラス窓の向こうで、すでにたくさんのチューブやコードに繋がれた夫が意識のない状態で横たわっていたという話です。
 看護師に頼んで「来たよ。愛している」と伝えてもらうと、遠くで表情は分からなかったものの、看護師がティッシュペーパーで夫の目元を拭いたので、ああ伝わったのだなと分かった、そんな話も出ました。

 最期の時、病院に呼ばれて行くともう心停止の状態で、看護師はベッドを窓のところまで寄せて来て、その手を持ち上げるとガラスに当ててくれたので、こちらも掌を当て、それでお別れとしたと言います。
 生身の夫の姿を見たのはそれが最後で、次は遺骨となって奥さんのもとに帰ってきました。

 新型コロナ特有の残酷な別れの様子は、すでに海外からも伝わってきていました。しかし日本人の話として聞くと、現実感はまったく違ったものになってきます。
 志村けんさんのお兄さんも2月に弟さんと会ったきり、一カ月ぶりの再会は遺骨となってのことでした。死に目にも会えず、死に顔さえ見られない――現代ではめったにあることではありません。
 新型コロナは感染力も恐ろしいし有効な治療薬やワクチンがないことも恐ろしいですが、通常考えられないような別れを強いるという意味でもさらに恐ろしいウイルスと言えます。

 

【コロナでなくても葬式ができない】

 緊急事態宣言以来、三密を避ける、県境をまたいでの移動をしないということで多くの結婚式がキャンセルになったそうですが、困るのが葬儀。昔から「村八分でも火事と葬儀は別」とされてきましたが、コロナ感染ではそうもいきません。

 今朝も新聞の死亡広告(訃報掲載欄)を見ると、全45件中34件までが家族葬です(76%)。葬儀の事後、「葬儀は家族のみで行った」と広告する家族葬はこのところ流行りだったとはいえ、3割を越えることはありませんでした。それが全く逆転してしまったのは、感染の恐れを考えるとこの時期に参列を求められないからでしょう。ただそう考えていくと、近親者ですら呼んでいいものかも迷います。

 私には94歳になる母がいますが、今、この人が死んだら、果たして孫である私の娘や息子を東京や九州から呼び寄せていいものかどうか。特に娘は小さなころから「お祖母ちゃん子」だった側面がありますから、葬儀にすら出席できないとなったら悲しみます。
 しかし無職の私はいいにしても、妻も弟も現役ですから万が一にも感染したら大変です。知らずに勤務に出て発症したら、濃厚接触者はそれぞれ100人では済みません。

 母には「とにかく今年一年は死んでくれるな」と言ってあります(もちろん、ワクチンが完成したらいつ死んでくれてもかまわない、とは言っていません)。
 しかしこれまで、これほど母の長命を願ったことがあったでしょうか――。そう考えると、母だけではなく私だって安心はできません。

 

【今は事故も病気もすべてダメだ】

 大きな病気を抱えているわけではありませんが、アルコールや入浴に関わる心停止の危険は若いころに比べればずっと高くなっているはずです。
 いやそんなことを言ったら妻や、私たちよりずっと若い娘や息子たちだって同じで、交通事故で搬送されてもPCRかCT検査をしてからでないと、次の段階に進めないません。

 事故や病気は普段だって良くないに決まっていますが、特に現在の状況では他人への迷惑のかけ方が半端ではないのです。
 万端注意して、今は医療関係者に迷惑のかからないよう、自重して暮らしたいと思いました。