就活ルール見直しに関する経団連会長の話についてあれこれ考えている最中、気持ちの中にずっとわだかまりというか、澱(おり)というか、なんとも言えない不快な感じがあって、何かと思ったら中西発言の周囲に出てきた、
「日本型雇用は世界のスタンダードからかけ離れている、こんなやり方をしているのは世界中で日本だけだ」に由来するものでした。
【懐かしい言い方、衰えた反射】
「こんなことをしているのは日本だけだ」
だから「ダメだ」「遅れている」「何とかしなくては」
といった言い方はある意味、懐かしいものです。
2010年以前だとその言い方をしているだけでテレビのコメンテータや評論家は勤まりました。
私は骨の髄まで民族主義者ですから、その言い方が出てくると反射的に戦闘態勢をとったものでした。
それが2011年の東日本大震災以来、主として被災地の人々の謙虚で落ち着いた姿、規律を守り共助の気概にあふれ、辛抱強く、前向きに生きる姿が世界に流布されて、やがて評判が逆輸入されるとそれからは日本礼賛のオンパレード。
「日本のここがすごい」「世界に愛される日本」「世界一親切な国日本」
等々臆面もない文言をサブタイトルにつけたテレビ番組にさすがに辟易しているうちに、本来の反射神経は衰えていたのかもしれません。
「日本型雇用は世界のスタンダードからかけ離れている、こんなやり方をしているのは世界中で日本だけだ」
と言われたら、
「それの何が悪い!」
といったんは跳ね除け、相手との距離を十分とってから考え直し、準備ができたら改めて殴りかかる、それが私らしいやり方でした。「なんとも言えない不快な感じがあって」なんてなどと曖昧なことを――。何たる平和ボケ! なんたる曖昧さ!
もちろんだからと言って日本型雇用(新卒一括採用や終身雇用制)がいかに素晴らしいかといった話を展開する気は、今はありません(ホントは素晴らしいと思っていますが)。その前にとりあえず、日本が世界と“違うから”ダメだ、遅れている、悪いといったものの考え方に異論があるのです。
違っていることは悪いことなのか。
【世界標準と違っていることは悪なのか】
大人は「横並びの新卒一括採用は効率よく採用できるメリットがあったが、同じような人しか採れなくなる」などと言っていますが、日本が世界と“違うから”ダメだと言っている人たちは自分自身が「海外の起業家と同じような人」に成り下がっていることに気づいていません。
軸足が海外にあるだけで、お隣さんに合わせて田植えや稲刈りをした(農耕民族というのはそういうものだ)「隣百姓」の精神を、海外に持ち出してそこから叫んでいるにすぎないのです。
違っていることはときには価値です。
世界のスタンダードから離れていることが問題なら、なぜ「おもてなし」などといった非効率な接客を持ち上げるのでしょう?
被災地で略奪の起こらない国など日本くらいなものですが、なぜそれを「自力で食料や飲料水を確保しようとせず、指をくわえて支援の来るのを待っている徹底した他者依存、自立性・自主性の欠如」と非難しないのでしょう?
食品や医薬品の高すぎる安全基準、生産者と消費者が共依存的につくる異常に高い衛生観念、――アメリカではセクハラ大王みたいな人が大統領をやっていてイタリアでもかつて素行に大問題を抱えた人が長く首相をやっていたりしました。仕事ができる、あるいはできると思われれば素行など問題にならないのです。一回や二回の過ちで知事や市長がバンバン辞めてしまうのは日本くらいだ、おかしい!と、この人たちは擁護してくれるのでしょうか?
【日本型雇用は案外しぶといのかもしれない】
ところで、今ふと思い出したのですが、私が大学を卒業するころも確か「年功序列時代は終わる。これからは実力主義だ」と言われていました。それから何かあるごとに、やれ不確実性の時代だ、やれ能力主義だと言われ続けたのに、今また年功序列が問題になるというのは結局この半世紀余り、多くの評論家や学者の予言にも関わらず、年功序列はしぶとく生き続けてきたことになります。意外と頑強な社会制度のようです。
私も30歳の時にUターン転職しただけで、その後は退職まで同じ組織で働きました。友人にも同様に、東京の企業に新卒就職したもののUターンで地元の会社に移った人間が何人もいますが、みな転職に転職を重ねるというようなことはしませんでした。
現在の企業にあっても、優秀な人材が中途で入ってくるのは大歓迎でしょうが、途中で出ていくことまでは歓迎しないでしょう。引き留めておこうと思ったら年功に応じてそれなりの地位や給与を出さないわけにはいきません。
話を元に戻して、新卒一括採用も超優秀とは言えない普通の学生だったら、何も青田で買ってツバをつける必要もありません。そういう学生たちは今と同じように新卒一括採用の方が効率的ですから何も変える必要はありません。
今とつぜん気持ちが楽になりました。
世の中そんなに簡単には変えられないし、今のままで困らない部分も大きいですから、日本型雇用は案外このまま残ってしまうのかもしれません。