「黒板」�A〜自慢!移動式連絡黒板

 30年も前の話です。

 当時担任するクラスと教室が決まって最初にやる仕事のひとつが黒板を整えることでした。正面の大黒板の右側に、白い水性塗料で「月」「日」「曜日」「当番」と書いて毎日の記入に備えます。教室の廊下側の黒板には「学習予定」と書いて下に6時間の授業の枠をつくります。「時」「教科」「内容」「持ち物」と書き込み、空いた空間には生徒会連絡の欄などをつくります。

(写真は現代の既成のもの。新品でビニルを張ってあるので見にくいかもしれませんが)

 毎年書き換えるのは水性塗料の劣化が激しいのと、教師によっては後任者のために真っ新にするのが礼儀と考える人がいたためです。さらに私のように汚い字を残すのは以ての外と考える教員もいます。そこで毎年の書き換えとなるのですが、私はこれがほんとうにダメでした。

 まず字が汚い。鉛筆でもペンでもチョークも毛筆もダメなのに、絵筆となるとなおさらです。また枠をつくるのも大変で、絵筆で描く線は曲がったりかすれたり、太ったり痩せたりと、クズみたいな連絡黒板になってそれが1年間も残るのです。ほんとうに嫌な仕事でした。

 もちろんこうしたことにも天才的な教員はいて、たちどころ素晴らしい作品に仕上げるのですが、そうは言っても小一時間はかかる仕事、安易に頼むわけにはいきません。こちらの矜持という問題もあります。

 そんなわけで悲劇的なわが作品を毎年書き直し、そして2年3年と付き合ううちにふと気づいたのです。

 学習の予定黒板はたいてい教室の廊下側、うっかりすると背後という教室もあります。すると生徒は予定を写すたびに横を向いたり、ひどいときは後ろを何度も振り返って書かなければなりません。これはあまりにも不自然です。あの予定黒板を正面にもって来れないものか――。それが私の自慢の作品の始まりでした。

 さっそく画材店に行って大型の木製パネルを買い、黒板塗料(というものがあった、と言うか今もある)も買って表面に塗りました。それに金具をつけて教室の正面と横に吊るせるようにしたのです。予定を書くときには正面の大型黒板に重ね、普段は横に吊るしておくためです。

 ここまでやると字や線を自分で書くことはありません。10年以上も使えるものですから先輩の先生に頭を下げ、ドーナッツの賄賂を用意して書いてもらいました。この予定黒板は、なんどもぶつけてボロボロになるまで、およそ15年も使い続けました。

 今は同じサイズの黒板がいくらでも売っています(値段は高くかなり重いという欠点はありますが)。ホワイト・マーカーという便利な道具もあり、線を引いたり字を書いたりするのも楽になりました。

 私の傑作はすでに灰塵に帰していますが、もし余裕があれば、そんなものも用意するといいのかもしれません。

                           (この稿、続く)