カイト・カフェ

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「松枯れと高砂」~最近、松枯れが目立つこと、高砂のジジババの話

 旅行学習の最中に矢崎先生が山の松枯れに気がつきました。山が焼けたように赤いのです。

 松が枯れる原因はいくつかありますが、全山丸枯れとなると松食い虫が原因だと考えられます。正しくはマツノザイセンチュウという線虫です。これは外来種で19世紀以前の日本にはいなかったものです。

 マツノザイセンチュウマツノマダラカミキリという日本古来のカミキリムシの体内に寄生します。宿主のマツノマダラカミキリを殺すことはありません。そしてマツノマダラカミキリが松の表皮をかじりにいくとき、巧みに体内から抜け出して松に入り込むのです。幹の内部に入り、水分の移動経路(導管)をふさいでしまいます。こうなると松は絶対に助かりません。

 枯れた松の中で数を増やしたマツノザイセンチュウは新たな宿主であるマツノマダラカミキリを待ち、その体内に再び入り込みます。そして新しい松へと向かうのです。
 マツノザイセンチュウにとって理想的な生存サイクルができているのです。

 ところで、マツノザイセンチュウに襲われた松はすべて死滅するかというとそうではあいません。ここがこの話のおもしろいところで、健康で勢いのある松は大量の松ヤニを出してマツノザイセンチュウを閉じ込めてしまうのです。そうなると虫は生きていけません。逆に言えばこれだけ松食い虫の害が広がったのは、日本の松に勢いがなくなっているのからなのです。ではなぜ日本の松に勢いがなくなったのか――これにも定説があります。

 松は腐葉土を嫌い水分を嫌う樹木です。それは険しい岩山の岩肌に張り付くように立つ松の姿からも分かります。その松が防風林・防砂林として水分の多い海岸に植えられても、なおかつ元気でいられたのには秘密がありました。それは松並木の下が常に清掃され、不断に枯葉が除去され続けたからです。松並木の下はいつも風通しがよく、土や砂は養分を蓄える暇がなかったのです。
 もちろん昔の日本人がボランティア活動で松並木の清掃に励んだわけではありません。松の枯葉が燃料として非常に優れていたため、常に回収され続けていたわけです。

 高砂の爺婆(たかさごのじじばば)の話をご存知ですか。知らなくても右のような人形や二人を描いた掛け軸は見たことがあるでしょう。これは能の「高砂」に出てくる老夫婦です。夫婦愛と長寿をテーマとした作品で、その一部、
高砂や この浦舟に 帆を上げて〜」
は、昔の結婚式では定番だったようです。しかし意味の理解できない人が増え、今ではテレビドラマの中でしか見ることがありません。

 翁が持っている熊手は「運を引き寄せる」ことを表し、媼が持っている箒は「邪を払う」ことを意味していると言います。しかしこれは、実際には松葉集めをしているのです。

 燃料としての松葉集めをしなくなって久しくなります。松葉林の根元には湿気を含んだ枯葉がうずたかく溜まっています。それにつれて松の生きる力も弱くなっているのです。