カイト・カフェ

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「スズメを捕獲する」〜スズメの話③(最終)

 スズメは昔から人間のそばで数を増やしてきた生き物です。 「雀百まで踊り忘れず(幼い時に身につけた習慣や若い時に覚えた道楽はいくつになっても直らない)」とか「欣喜雀躍(きんきじゃくやく:小躍りするほど大喜びをする)」とか、ことわざや四字熟語にも使われます(意外と少なかったな)。

 ところでスズメと人間の交流というとすぐに思い出されるのが、あの、伏せたカゴを紐の付いた木の棒で支え、その紐を引っ張ってかぶせる「スズメ捕り」です。

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 【スズメ捕りのワザ】

 これについては昔、理科の先生から、
「あれは秋から冬にかけての風物詩なんだよ。真夏にあれをやってもスズメは絶対に捕まらない」
と教えてもらったことがあります。
 コメの収穫期をねらってスズメが襲ってくると思われていますが、鳥の主食は昆虫だの他の虫の幼虫だのといった動物性たんぱく質で、コメや麦ではなかなか生活できないのです。そのくらい空を飛ぶというのはエネルギーを使うことだそうです。

 秋の脱穀後に落ちたコメを狙うのは他にエサがないからで、夏はコメになんか見向きもしません。だから夏の風景に「スズメ捕り」のワナということは絶対にないんだと――。以後私はそんな絵はないかと気にしているのですが(ツッコミどころですから)、やはり出会ったことがありません。そもそもそうした絵自体が珍しいのです。

 

【あの罠でホントにスズメは捕れるのだろうか】

 私自身は小さなころからあのワナについて知っていて、しかもスズメのゴマンといる場所で育ったにもかかわらず一度も試したことがありません。

 そこで今回、この記事を書くにあたって改めて調べてみたのです。ところが驚いたことに、子どものころこうしたワナをつくったことがある人はそこそこいるのに、皆一様に「うまく行かなかった」というのです(こういう話、『ワナを仕掛けたらやたら捕れました』といった話よりよほど信用できます)。中には「正しいやり方を教えてください」と助けを求める人までいました。
 しかしさらに読み進むと「捨てる神あれば拾う神あり」、それに対する答えもちゃんとネット上にはありました。

 要するにコツは、「捉まえる瞬間、かごが左右に揺れるのを防げばいい」らしいのです。
 三本の枝を土に差し込んで、その間でカゴが真っすぐ下に落ちるようにすればいい。さらに捕獲後のスズメを捉まえやすいように、地面に穴を掘っておき、中に入ったスズメをカゴをずらして手を入れて掴むのです。
 ナルホド。これも実際に体験した人でないと分からないことです。

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「セドリとアニメな日々」より

 さて、ここまで調べると当然やってみたくなるのが人情です。しかしそれは不可です。
「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」というので、
 野生鳥獣又は鳥類の卵については、狩猟により捕獲する場合を除いて、原則としてその捕獲、殺傷又は採取(以下「捕獲等」という)が禁止されています。
 ただし、生態系や農林水産業に対して、鳥獣による被害等が生じている場合や学術研究上の必要性が認められる場合などには、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けて、野生鳥獣又は鳥類の卵を捕獲等することが認められています。
野生鳥獣の捕獲―捕獲許可制度の概要) ということになっているからです。
 しかたないですね。もっとも捕まえたところでどうするというあてもありません。

 

【で、捕まえたスズメはどうしたのだろう?】

 ところでこんなふうにして捕まえたスズメ、昔の人はどうしたと思います?
  皆が皆、「舌切り雀」の“心優しいお爺さん”のようにペットにしたわけではありません。実は多くの場合、人間が食べたのです。そもそも食べるために捕まえている。

 “スズメ”は亡くなった父の若いころの好物で、真っ黒に光る“スズメの黒焼き”を頭の方から口に入れ、「バリバリバリッ」っと頭蓋骨をかみ砕く音は、当時“心優しいお兄さん”だった私の耳に残って今も忘れることができません(ホントウに嫌な音だった)。
 しかも父はとても満足そうにソレを食べているのです(おぞましい・・・)。

 もちろん好物だからと言ってしょっちゅう食べていたわけではありません。どこかに行けば売っていたのかもしれませんが基本的に“スズメの黒焼き”は高級な珍味で、よく結婚式の引き出物として出てきてそれを食べたのです。

 当時は引き出物が五品も七品もつけられた時代で、引菓子に海苔または鰹節、お茶、尾頭付きのタイ、詰め合わせの料理などが基本の品です。
 その「詰め合わせ料理」の中の、キンピラゴボウだとか煮豆だとかあるいは松の枝を模した蒲鉾だとかの並んだ左上に、もうそれは絶対にトリだとしか思えない明らか姿で、真っ黒なスズメが左を向いて(なぜかいつも左だったように思います)鎮座ましました。(思い出しても背筋が寒い…)。

 無着成恭の「やまびこ学校」には、友だちと楽しく“野ウサギ狩り”に行き、ぶじ一羽を手に入れて親に自慢したら、夜になってウサギ鍋を食べることになって怯える子がでてきます。私もウカウカとスズメ捕りなどしてたら、父と一緒に串焼きになった真っ黒な獲物を食べるハメになっていたかもしれません。

 クワバラ、クワバラ・・・。