カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「最初に何をするのか」~三歳までに身につけさせたい三つのこと

 中学校の教員をしていた頃、入学してくる子どもの97%くらいまではまあ我慢できるとして、残りの3%ほどに「なぜこの子が中学生なんだ」と言いたくなるほど基本的なことのできない子たちがいて、」本当に不思議でした。
 能力的な問題ではありません。学習習慣が全くないとか、斜に構えて物事をまっすぐに見られないとか、当番活動や係活動といった社会性がまるで育っていないといった子たちです。よくこれで小学校の最上級生が務まったものだといった感じでもあります。
 そこで、やはり小学校へ行って見てくるしかないと異動を希望し、5〜6年生から順々に降りて1年生の担任になって初めて、理解しました。

 小学校では遅すぎる・・・小学校入学の時点で、すでに差が開いてしまっているのです。

 では、いつなら間に合うのか――“今でしょ”、ではありません。生まれたその時からです。

 ここのところ乳幼児の教育について考えることが多いのですが、生まれたばかりの赤ん坊の養育というのは案外楽なものです。お金もかかりません。
「昼夜関係なしに泣いておっぱいを欲しがるから大変だ」とおっしゃる若いお母さんもおられますが、その子が中学生になって毎夜、毎夜、繁華街をふらつき歩くのを、必死に追いかけて呼び戻すことを考えれば、睡眠不足などどうってことはありません。養育目標だって一歳までは「とりあえず生かしておく」くらいなものです。

 乳幼児の生活は単純で、「寝て起きて」「食事をして」「遊ぶ」、この三つだけです。したがって指導もこの三つに集中すればいいのです。目標は以下の三つです。

  1.  毎日同じ時間に眠り決まった時間に気持ちよく目を覚ますこと。
  2. 好き嫌いなく何でも食べられること、量も適切であること。
  3. 汗をかいて活動的に楽しく遊べること。好奇心に満ちて物怖じしないこと。

 もちろんたった三つでもそれぞれはけっこう厄介です。

「好き嫌いなく」と言っても離乳食段階の子どもだと口から吐き出すといった技を持っていますから、食べさせること自体が困難です。調理法を工夫したり、その子の習性を観察して頃合いを計ったりと、かなり粘り強い取り組みが必要になります。
 物怖じしない子を育てるためにはまず親が活動的でなくてはなりません。かなり危険な場面もあったりしますから目も離せません。禁止しなければならないことも多くなります。

 そうやって三つの目標を達成して行くのですが、本質的なものは実は別にあります。本当に成し遂げたいのはそうした養育を通して、保護者が常に愛情をもってそばにいてくれるという基本的安心感を育てること、ある程度の強制を受け入れる力を持たせること、必要なことのために何かを我慢する力(の素地)を育むこと、そういったことです。

 逆に言うとこの「寝て起きて、食事をして、遊ぶ」に指導が行き届いていないと、あとがかなり厄介になります。たった三つもできない家庭に、その後の複雑な養育・家庭教育というものができるはずがないからです。

 こういう言い方があります。
「『どこの大学を出たか』で人生が決まる学歴社会はすでに終わった。現在、人生を決めるのは『どこの家に生まれたか』だ」
 まったく身もフタもないような言い方ですが、その家に生まれたこと自体が不幸という子も(児童虐待を筆頭に)かなりいるのです。