カイト・カフェ

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「校長は神輿、ボーっとして雲の上にいるのがちょうどいい」~権威や権力がなくなることへの期待と不安③

 行政はよく「校長のリーダーシップを」などと言うが、
 校長に先を歩かれては、現場はかなわない。
 やることなすこと必ず成功するとは限らないからだ。
 校長は神輿、ボーっとして雲の上にいるのがちょうどいい。
 という話。(写真:フォトAC)

【とんでもない話が飛び込んでくる】

 今からお話しするこのこと自体が四半世紀も前のことなのですが、ある日私の自宅に電話がかかってきて、
「実は先生がお勤めの◯◯小学校の保護者で、先生とは何のかかわりもないのですが、ちょっと困ったことがあってある人に相談したら、T先生(私のこと)に話してみたら? と言われて電話をしている次第です」
という何か厄介そうな話。聞かずに断るわけにもいかないので、事情を尋ねると、
「息子が学校で問題を起こして、その件自体はウチの子が悪いから仕方ないのですが、学校に呼び出され、担任の先生とお話している最中に校長先生まで来られて、その際、校長先生から『お宅の息子にはもう学校へ来てもらいたくない、どこかに行ってほしい』と言われてしまった。
 もちろん悪いのはこちらですが、そこまで言われるとさすがに腹に据えかねて、どうしたものかと思いあぐねてこうしてお電話を差し上げているのです」
という、超ド級にヤバイ話です。これが逆なら校長としてヒラの教員を連れ、一緒に謝りに行けばいいようなものですが、ヒラが校長を引きずっていくわけにもいきません。そもそもどういう言い方で校長に話したらいいのか、それさえも分からないのです。

【校長がミスしたら、誰が謝るのか】

 普通なら「調べてからお返事します」と言うところですが、調べたところで話している相手が当事者ですからそれほど大きな違いはないでしょう。それに、多少の違いはあったにしても、保護者に向かって「お宅の子どもは学校に来ないでいい」といった類の発言をしてしまったらおしまいです。
 そこで私が平謝りに謝って、
「細かな事情は分かりませんがどんな事情があったにしろ、どんな言い方だったにしろ、『お宅のお子さんは来なくていい』みたいな言い方に一片の正義もありません。立場が逆なら私が本人を連れて謝りに行くべきところですが、校長を引き連れていくわけにもいきません。それができるのは教育長だけで、話をおおごとにすれば市教委が校長と一緒に雁首を揃えて陳謝に伺うと思います。しかしそれとて得られるのは謝罪だけです。
 お気持ちはよく分かりますし、ほんとうに腹の収まらない面もあろうかと思いますが、今回は一度だけ矛を納め、様子を見ていただくわけにはいきませんでしょうか。もし同じようなことがあれば、迷わず市教委に行っていただければいいのです」
といったことを丁寧に申し上げ、電話を切っていただきました。

 その後すぐに教頭先生に電話をかけて事情を話すと、
「そう言えば校長先生、『もう学校に来なくていいと言ってやった』なんておっしゃっていたな」
ということで、ほぼ事実関係は間違っていなかったようです。ただ教頭先生にしても私と同じで校長先生を引っ立てていくわけにもいかず、こちらも様子見ということになりました。

 あとで教頭先生が私の電話の内容等を校長先生に報告したかどうかは知りません。ただし私のところに電話をくださった保護者はそれ以上問題を大きくすることがなかったので、一応何ごともなかったかのように事態は終了しました。

【校長が最前線に立ったらとんでもないことになる】

 私がそのときに思ったのは、
「校長が最前線に立ったらとんでもないことになる」
ということです。よく「校長は最後の砦だ」といった言い方をしますが、「最後の砦」が最初に落ちてしまえば手の打ちようがないのです。

 通常、問題があればまず担任が出ていき、担任でダメなら学年主任が出ていく。学年主任でもダメなら教務主任が出ていき、それでもダメなら教頭が、と順次出て行き、途中でミスがあったら校長が、例えば、
「いやはや教頭がそんなことを言ったのですか、それはいけませんなあ。私から厳重注意しておきますから、今回はそれでご容赦ください」と言えば済む話なのです。しかし校長が最初から出ていくとそうはならない――。
 
 話題にした校長は翌年、保護者夫婦と話すのに、校長室で担任・学年主任・教務主任・生徒指導主事・教頭・校長と6人で取り囲むようなやり方をして相手を怯えさせ、ひとことも反論できなかった保護者はのちに再武装して市教委に駆け込み、かなり厄介なことになりました。隠ぺいということでなく、校内で収めれば本当に楽なのです。市教委が出てきたら連絡調整だけでも面倒です。
 それを、過ちを犯してはいけない人が最初から出て行って、間違えるからとんでもないことになります。

【校長は神輿、ボーっとして雲の上にいるのがちょうどいい】

 校長が安易に外に出て行かず、
「校長先生というのはどんなに気さくに見えても実は恐ろしい力を持っていて、学校をいかようにもできる、だから向こうから声をかけてくるならまだしも、こちらから安易に声をかけてはいけない」
 児童生徒・保護者にそう思わせておくことはかなり便利なことだと私は思っています。
 神秘的な人がひとこと発すれば大した内容でなくても重い意味を持ちますし、誉めるにしても叱るにしても、幻想を纏っている人からであれば効果も倍増です。
 
 校長は学校の神輿であってやたら顔を出さず、ボーっとして雲の上にいるくらいがちょうどいいのです。

(この稿、続く)