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「教頭はなぜハンドルを握ってしまったのか」~新しい標語“飲んだら乗るぞ”の提唱

 富山県魚津市で新任の教頭が飲酒運転で逮捕された。
 なぜこれほど言われているのに飲酒運転が後を絶たないのか。
 答えは簡単。飲んだら人は判断力を失うのだ。
 だとしたらどう対処したらいいのか――
 という話。(写真:フォトAC)

魚津市の新教頭はハンドルを握った(4/8)】

 富山県魚津市で8日の未明、赴任してきたばかりの教頭先生が酒気帯び運転で逮捕されたとニュースになっていました。
 教員の酒気帯び運転はたびたびニュースになりますが、管理職が逮捕されることはめったになく、それだけに魚津市の教育長は、
「信頼を裏切る行為であり、極めて残念」「あってはならないことであり、事故の被害者の方はもちろん、多くの方にご迷惑をおかけし、たいへん申し訳ありません」と平謝りです「信頼を裏切る行為」小学校教頭を酒気帯び運転で現行犯逮捕 会合帰りに深夜対向車と衝突 富山・魚津市)。その上で、
「今後は、教員の綱紀の粛正にいっそう務め、再発防止にむけて努力してまいります」
と言っていますが、2006年に福岡の公務員の端くれが、海の中道大橋で家族5人の乗る自家用車に追突し、子ども3人を死なせて以来、教職員に限らず官公署及び学校などおよそ公務員の働く機関ではこぞって山ほどの対策を打ってきました。今さら何ができるというのでしょう。

【例えば北海道では】

 例えばそれは(たまたま検索で当たった北海道の資料を借りると)、「飲酒運転根絶誓約書」(*1)の提出や「飲酒運転根絶カード」(*2)の携行、職員室や研究室での「飲酒運転根絶宣言」(*3)の掲示、公用車の(職員が自家用車で通勤する場合も公用車扱いとして)ステッカー(*4)を掲示、各種研修会への参加、校内研修におけるセルフチェックカードの活用、事例集の読み合わせなどなど、およそ思いつくことは片っぱしやってきたわけです。

 「飲酒運転根絶誓約書」などは毎年度当初の職員会議でわざわざ時間をとり、全文自筆で書き写し、署名捺印する丁寧さです。私のような自覚の薄い人間はさっさと書いて済ませますが、中には毎年深い屈辱感を味わいながら書く人もいます。
「子どもじゃないのだからバカにするのもいい加減にしろ」
というのが言い分です。しかしそうした反発も覚悟の上で、教育委員会として他にできることもないのでそうせざるを得なかったのでしょう。今日、新たに逮捕事案が出て来たからといっても、焼き直しの研修会以外に今さら新しくできることがあるとは思えません。魚津市教委も富山県教委も頭の痛いことです。

【飲酒運転の代償はとんでもなく重い】

 飲酒運転は程度によって「酒気帯び(軽度)」「酒気帯び(重度)」「酒酔い」の三段階に分かれ、それに応じて警察の処分も教育委員会の処分も変わってきます。富山県の場合を調べますと教委の処分は一番重い場合で懲戒免職、軽くても停職です(交通事故を起こした職員の懲戒処分等の基準)。

 先に拾った北海道の資料には処分の例として「35歳小学校教員の停職3か月」「40歳高等学校教員の懲戒免職」が上がっていましたが、前者の場合は生涯賃金で400~500万円の損失、加えて氏名・学校名の公表、さらに交通違反として「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、違反点13点~25点、運転免許停止(90日)もしくは運転免許取り消し(欠格期間2年)。
 後者の場合だと定年までの給与1億5000万円と退職金2,200万円の損失、年金にも響きます。さらに氏名・学校名の公表。懲戒免職だと自動的に教員免許も失効しますから、教員としては他県にいても働けず学習塾・予備校の講師としても働きにくいところです。さらに交通違反として最も重い場合に「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」「違反点35点、運転免許取り消し(欠格期間3年)」。

 具体的な数値は覚えていなくても飲酒運転の結果がどれほど重いかは、教員のみならず公務員ならだれでも、嫌というほど教えられえ来ています。それなのになぜ、魚津の教頭は車のハンドルに自ら手を伸ばしてしまったのか――。

【教頭はなぜハンドルを握ったのか】

 一番簡単な答えは「酔っていたから」です。おそらくそれが唯一無二の答えです。
 酔っていたからこそ気は大きくなり、判断力が鈍り、想像力は衰える。万が一の可能性がゼロのように思え、自己効力感は肥大して運転ミスの可能性も消えてしまう、そして実際に事故を起こしたり検問に引っかかったりしてようやく目が覚め、ことの重大さに慄く――そういった可能性しか考えられないのです。これまでしてきた山ほどの研修も飲んだ瞬間から重みを失ってしまうのです。だとしたら大量の研修も用をなしません。どうすればいいのか。
 
 基本的には「飲んだら乗る(=飲んだら判断力を失って運転してしまう)こともある」「運転代行を使うつもりでも、酔って頼むのが面倒くさくなることもある」を前提に、「車で飲み会に行かない」「車で行ったら飲まない」「運転代行(を頼むという言葉)を信用しない」を三原則に、互いを監視し合うしかないのです。監視と言えば人聞きは悪いですが、互いを守りあうには他に方法がありません。

【互いを見守る】

 車で来ないのが原則ですからできれば自宅に車を置いてこられるように飲み会の開始時刻を設定し、それでも車で来ざるを得なかった先生には「飲まない」という態度を明確にしてもらうしかありません。

 私は「アルコールは飲みません」という名札をつくって飲まない人には胸につけてもらうようにしました。これだと本人はいちいち断らずに済みますし、こちらも迷わずに済みます。
 あるいは「運転代行で帰ります」とか「電車で帰る」というのもつくっておけばよかったのかもしれません。そうすれば誰かが気を遣って一緒に代行業者を頼んでくれたり、電車の時刻を気にしてくれたりするかもしれないからです。
「迎えが来るのでジャンジャン飲めます」だってアリだったのかもしれません。


(参考)

*1

*2

*3

*4