カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「アメリカはどこに行くのか」①

――あんな外国の赤ら顔の大男のために、なぜ日本の片田舎の老いぼれた元教員が心悩ませなければならないのか、そのこと自体が悩ましい――

 恐れていた通り昨日未明のドナルド・トランプの記者会見は惨憺たるものでした。
 良きことはただひとつ、ロシアによる民主党へのサイバー攻撃を認めた点(なぜ認めたのだろう?)。自身を脅迫できる重大な情報をロシアが手にしたという件については情報局の不手際だと一蹴しました(なぜ右手のやったことは認めて左手のやったことは認めないのだろう?)。

 利益相反を防ぐために本来なら完全に手放すべき企業経営を息子に譲り、ファミリー企業に膨大な収入の入る道筋を残したり、一度は軟化したメキシコ国境問題でもフェンスを再び“壁”に戻し、しばらく言わなかった「代金はメキシコに支払わせる」も復活しました。
 そしてマスコミの選別。自分に不利な記事を書いたメディアには何も言わせないというやり方は、民主主義の根幹にかかわります。

 三大テレビネットワークをはじめアメリカのマスメディアは、この男がどれだけ危険なのか知りながら、視聴率稼ぎのために派手に扱ってタダで宣伝し続けた挙句、大統領にまで押し上げ、その結果、記者会見の場で選別されるようになったのです。笑い事ではすみません。

 しかし日本のマスメディア、専門家たちもほめられたものではありません。私の苛立ちは、一義的にはそこにあります。

【トランプは悪くないといった人、手を挙げなさい!!】

 昨年6月ごろ、ドナルド・トランプ共和党の候補として頭角を現し始めたとき、これを評価する声はほとんどありませんでした。しかし7月の共和党党大会が終わり、9月末の第一回テレビ討論が始まるころから、日本国内でも推す声がチラホラと出始めました。「ヒラリーよりましだ」と。

 それが11月8日の投票日が近づき、ヒラリー優勢が伝えられると、明らかにトランプを支持する“専門家”の数が増え、結果予想は、
「残念ながらヒラリーの勝ちですね」
というところに落ち着きました。
 当時テレビの中でそうしゃべった“専門家”の人たち、手を挙げなさい。

 しかし予想に反してトランプが勝利し、本人も予想しなかった事態にビビったトランプが、弱気で穏やかな発言をすると、
「いやあ、こうしてみると彼はなかなかの人物だ」
「実際の仕事が始まればきっと現実的な線に落ち着くに違いない」
と、掌を返した上に甘い見通しを流布した変節の“専門家”たち、一歩前へ出なさい。

 そして昨日の記者会見を経てなお、
「まあここで下出に出たら負けですからね、トランプさんとしても強気に出るしかない。問題は就任後の最初の300日。そこでどう現実路線にソフトランディングしてメディアとの関係修復を図っていくのか、そこが見ものです」
と言っているキミ。今、前に出ている連中のすぐ後ろに並びなさい。
 先生が殴ってあげます!

【トランプはトランプだろ!】

 私はドナルド・ドランプのどこをどう見たら「やがて現実路線を取って普通の大統領になる」という見通しを持てるのか、さっぱり理解できません。
 トランプはトランプでしょ。

 そもそもアメリカであろうと日本であろうと、あるいはロシアであろうとヨーロッパのどこぞの国であろうと、はたまた初めて選挙を行う山奥の新興国であろうと、選挙中に言ったことを当選のその日から変えていいということはありません(例外はEU離脱の際のイギリス、ファラージさんたち)。
 トランプが「国境に壁をつくり、費用をメキシコに払わせる」と言ったらまずそれを前提に考えなくてはいけません。壁がフェンスになり、費用を全額ではなく8割にダンピングするにしても、何もしないということはありえません。話半分だとしてもたいそうなことです。
 中国や日本やメキシコから雇用を取り戻すと言ったら、最低でも半分くらいはしようとするでしょう。その結果メキシコ経済が疲弊して経済難民が大量に合衆国に流入し、せっかく取り戻した雇用をアメリカ国内で奪い返されても、そんなことは大した問題ではありません。莫大な予算を使って彼らを摘発し、追い返せばいいだけです。
 輸入車に35%の関税をかけると言っていますが、言った以上はそうするでしょう。相手が対抗措置を取ってきたら脅せばいいだけです(なにしろ脅すことは大好きですから)。
 WTOに提訴されたら、脱退すればいい。

 それでうまくいかなければ、ワシントンの政治家やウォール街のエリートたちのせいにすればいいし、中国のせいにすればいいし、日本やメキシコのせいにすればいいのです。
 自身の言動を問い質されたら「言っていない」「やっていない」「私ほど女性を尊敬している男はいない」「メキシコ人は勤勉で立派な人だ」と言っていればいい。
 矛盾を突かれたら「黙れ、お前はフェイク・ニュースばかり流しているじゃないか」と矛先を変えて突っぱねればいい。聞く耳さえ持たなければ事態は単純です。

 そうした姿は選挙中からずっと見せてきたものです。彼が現実路線に方向を変えるというサインも理由も、一片もなかったはずじゃないですか。