「男の子の育て方、女の子の育て方」③

「中学校は女の子を育てるところだよ」
 そう私に教えてくれた先輩はもうひとつ重要なことを教えてくれました。
「女の子が“真面目できちんとした男の子が好きだ”と言えば、男子はあっという間にキリッとする。逆に“男子は少しくらい腐っている方が旨い”と言いだすと一斉に腐ってしまう」
 これも真理です。それほど男子は単純なのです。 

 しかし理屈は分かって現実はそうだとしても、“真面目できちんとした男の子が好きだ”という女生徒をクラスの多数派にするのは容易ではありません。そもそもその方法は担任まかせなのです。

 一方、学校の外部には非行文化がごまんと揃っています。映画を見れば「クローズ」「ワルボロ」「愛と誠」、永遠の尾崎豊に倣って卒業式の夜に学校のガラスを割って回るヤツが後を絶たず、泣いて泣いてチンピラになりてえと叫ぶ奴がいて、多少マシなお坊ちゃんがドラマの主人公かと思ったらF4は皆金持ちで勉強する意欲などまるでなし――これではまじめでコツコツ学校生活を送る真面目な普通の生徒の出る幕などまるでないのです。女の子一人が「真面目ってヤーネェ」と言えば女子が一斉にうなづきそうな雰囲気は満ちみちています。

 2013年の統計によれば、中学校3年生が一日にテレビやビデオを見る時間は88分、ゲームに費やす時間が32分、パソコンやスマホを使う時間が89分、音楽を聴いたりマンガを読んだりする時間が64分ほどですから合わせておよそ4時間30分となります(年間では1661時間ほど)。

 学校の授業時間は1日6時間。これだけ見ると授業時間の方がかなり多いのですが、実は50分単位ですから実質5時間。日数は年間200日程度しかありませんから総計1000時間です。
 テレビやスマホに対する集中力と授業に対する集中力の違いを加味すれば、子どもたちに与えるITの影響力に戦慄せざるを得ません。

 学校にとって有利な点は、まず、教育が意図的活動だということ。
“対決! 非行文化”といったスローガンを掲げ、意識的に教育課程を組み立てていけばかなりのことができます。
 そして学校教育が集団指導の場であるということ。
 学級内に多数派を形成することで、全体を支配できるのです。

 正直言いますと、私は中学校の学級担任としての仕事を十分に突き詰める前にその席を離れてしまいました。教員としてもっとも面白い場を早々に去らねばならなかったのは痛恨でしたが、それも運命でしょう。後継にはものすごく優秀な若者がたくさんいましたから、出番もなかったのです。

* 人事異動のシーズンになるたびに「中学校の担任にしてくれ」「中学校で学担をやりたい」と言い続けたら、それに業を煮やした校長が、若い同僚の先生を指さし――
「T先生、あの○○先生でさえ希望しても行けないんだぞ(だからお前が通るわけないじゃないか)!」
 それで諦めました。