カイト・カフェ

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「男の子の育て方、女の子の育て方」②

 少年鑑別所や成人矯正施設に勤務したのち、医療少年院長を経て現在講演活動に従事している小栗正幸は、子どもが非行に走りやすい要因(非行のリスクファクター)の最大のものは「男の子に生まれることだ」と言います。非行少年の最大の共通項は「男子」なのです。

 3歳になったばかりの私の息子が“バンバン(拳銃)”に夢中になったように、男の子は本来的に暴力に対して親和性があります。幼稚園や保育園で、暴力で問題解決を図ろうとするのは圧倒的に男の子でしょう。
 衝動性という点でも女の子を圧倒しています。何かに興味を持つと他の一切が目に入らなくなる様子はしばしば目撃できます。
 これも息子の話ですが、やはり2〜3歳のころ、自分は食べてしまったのに姉の目の前あったお菓子がほしくてたまらなくなったことがあります。姉はいつまでもしげしげとその素敵なお菓子を眺めていました。その眼の前からぱっと菓子を盗むと、息子は椅子から転がり落ちるように逃げて――そこまではいいのですが、菓子を口の中に放り込んで走り始めたのです。これには呆れました。どこでそんな知恵をつけたのか。
 きちんと育てなければ他人のものでも店屋の商品でも、ほしいと思ったものには手を出しかねない(我慢できない)、それが男の子です。
 カエルやバッタなど小動物を殺すのも男の子、道路に飛び出して車とぶつかるのも男子です。高いところにも登るのも男の子で、同じことを女子がすれば“お転婆”扱いです。基本的に男の子の所業と思われているからです。

 もちろん非行少年の中には女子もいて、“本来は非行に走りにくいのにも関わらずそうなった”という意味ではむしろこちらの方が深刻だと小栗も言います。
 同じことは、以前見学に行った児童自立支援組織の責任者からも聞きました。
「男の子については何とかなるのです。友だちがいて、あるいはここで知り合ったちょっとヤクザな関係を維持して、法に抵触するギリギリの内側という場合もあるのですが何とか真っ当な世界で頑張り続ける、そういう生き方ができる。しかし女の子はダメですね。いちど曲がった女の子は元に戻れない・・・」
 これは女の子がひねくれているとか、復元力がないとかいった問題ではありません。女子はそこまで重い事情を抱えて初めて非行少女になるということです。男の子の越える低いハードルとは違うのです。

 女子の成長は重いという考え方は、初めて中学校の学級担任になった時、先輩からも教えられました。教員としての私が手に入れた、最も重要な示唆のひとつです。
「中学校は女の子を育てるところだよ。女の子は15歳が精一杯でそれ以上は成長しない。15歳で道を誤った女子は容易に元に戻らない。15歳できちんと育っている子は簡単には崩れない」
 私の実感も同じです。15歳からしばらく経った二十歳の男女を見比べてみればいいのです。二十歳の女性のほとんどは、明日結婚して母親になっても何とかやって行けそうです。しかし二十歳の男の子を信頼するのはたいていの場合、困難です。二十歳が25歳でも、30歳でも不安な男子は不安、それだけ大人になるのに時間がかかるのです。
 まとめるとこんなふうになります。
「女の子を育てるのは一気呵成。15歳を過ぎたら変容させるのはとても大変。
 男の子は可塑性が高く、いつでもやり直しがきく。ただしその分いつまでも危険で、その養育はだらだらといつまでも続く」
 もちろん科学的に証明できるものではなく、私の実感なのですが。

                              (この稿、続く)