カイト・カフェ

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「子どもに本を紹介することについて」~子どもにどんな本を薦めるか

(前置き)
 読書旬間の「先生による本の紹介」を任されました。さんざん迷ったあげく最後はヤケクソで、20分も使って紹介したのは次の10冊でした。
ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」
スタニスワフ・レムソラリスの陽のもとに」
ミヒャエル・エンデ「はてのない物語」
J.R.R. トールキン指輪物語
ドストエフスキー罪と罰
(ついでにユゴーレ・ミゼラブル」)
紫式部源氏物語」(谷崎潤一郎 訳)
鈴木光司「リング」
東野圭吾白夜行
重松清「ナイフ」
 以下はそれに関わる話です。

 休み時間に中地麻美さんから声をかけられました。
「S先生、あの『はてしない物語』の本の横に、『ネバー・エンディング・ストーリー』の写真があったんですけれど、何か関係あるんですか」
 ああそれ、当然のこととして言い忘れてしまった――。
 そこで「はてしない物語」の前半が映画『ネバー・エンディング・ストーリー』で、後半が「ネバー・エンディング・ストーリー2」なのだと説明し、本の文字が緑と茶に色分けしてあるのは、それぞれがバスチアンの世界とアトレーユのファンタージェンを描き分けているからだと話しました。
 でもあとから考えたら、
「『ネバー・エンディング・ストーリー』、日本語に訳してごらん。ネバーは『けっして〜ない』、『エンディング』と『ストーリー』は?」
とか言った方がよほど教師らしく、また少しは格好良かったかなと後悔しました。

 続けて麻美さんは、
「それから『ソラリスの陽のもとに』っていうのも面白そうですよね。私、宇宙とかそういうのが好きですから」
 私はウンウンと言って「ぜひとも読んでごらん。よかったらあそこの本、持って行ってもいいよ」と話しておきました。ちょうど急いでいることがあってそれ以上の会話はできなかったのですが、それなりに考えて話したことにきちんと反応してもらえて、少し(と言うか、“とても”)嬉しかったのです。

 読書旬間に子どもに本を紹介するというのがとても苦痛です。特に小学校の高学年から中学生にかけての子どもが、どの程度本が読めてどのあたりに興味が惹かれるのか、よく分からないのです。
 名作のジュニア版なんてとても勧められません。大切なところがガンガン削られている迷作を読むくらいなら、大人になるのを待ってほうがいいのです(ジュニア版で十分という多少の例外はありますが)。しかしだからといって中学生に読める名作・佳作に知識があるわけでもない。
 そこでたいていはありきたりの話を、(多少心を痛めながらも)おざなりに紹介して終わりにしてきました。

 今回はそういうことも面倒になりました。そこで、ままよ、どうせ紹介するなら子どもが読めようが読めまいが、好きになろうがなるまいが、そんなことは関係なしに自分の一番気に入っているものをどんどん紹介して、あとは子どもたちに任せよう、そんなふうに丸投げするつもりで話したのです。麻美さんとの会話は、それでよかったのだと私に教えてくれます。

 原田先生は中学校3年生の時に「罪と罰」を読んだのだそうです(本はあまり読まないんですけどと、但し書きの上にお話し下さいました)。検事と主人公の厳しいせめぎ合いの場面では、気が付いたら手にびっしょり汗をかいていて自分でも驚いた、とそんなふうに話しておられます。よく分かる話です。

 中学生だって読める子はいくらでも読めるのです。万人が理解できて万人が好きになる書物など世の中にはないのです。
 私が何を紹介しても、他方で別の先生が別の何かを紹介して下さっているのですから、自分は自分らしく、無理のないやり方で本を紹介していけばいいのだと、そんなふうに改めて思いました。