カイト・カフェ

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「ナマケモノ」~その驚くべき生態

 適者生存という言葉はスペンサーが言い出してダーウィン科学的に説明したといわれています。しかし世界には「なんでこんなモンが生きながらえたのか」と首を傾げるような動物はいくらでもいます。

 例えばパンダ。何しろあの巨体を維持するのにササしか食べないというワガママぶり、しかも色はやたら目立つツートーン・カラー、赤ん坊はほとんど未熟児状態のひ弱さです。どうやって21世紀まで生き延びることができたのか。

 さらに不思議な生き物はナマケモノ。生涯のほとんどを樹にぶら下がって過ごし食事や睡眠から交尾・出産までも樹にぶら下がったままで行う、主食は葉や新芽など、動物園でじっと見ていてもほとんど動かず、たまに食べ物に手を伸ばすにしても恐ろしく緩慢、しかもエサは飼育係がわざわざ手の届く範囲につるしたものです。それでなぜ他の動物に襲われないのか。

 そこで調べてみると意外なことが分かりました。とにかく動かないのが特技で、昼間は両腕の中に頭を入れて丸くなって眠るので遠目には樹の一部に見え、おかげでジャガーなどの肉食獣の目にふれない、年を取ったナマケモノの中にはご丁寧にも背中にコケを蓄えたものまで出てそれでいっそう目につかなくなる。つまり動かないことが、野生を生き延びる有効な手段なのです。

 私がこの動物に興味を持ったのは、「熱帯雨林やサバナに、鈍感な生き物はいるのだろうか?」という疑問を持ったことに始まります。なぜそんな疑問を持ったのかというと、私自身かなり鈍感なところがあって「元野生動物の血を引く私が、なぜかくも鈍感に育ったのか」と不思議に思ったからです(というよりはそう指摘された)。

 ただしナマケモノについて調べていくとさらに驚くべき事実が分かってきます。この動物、危急存亡の際には驚くべき速さで行動できるのです。例えば週一回程度の排便・排尿のときは(危険極まりない瞬間です)、一気に樹を下って地上で用を済ませ、またそそくさと登って“固まる”のです。さらに熱帯雨林につきものの洪水で命を落とさぬよう、泳ぐ方もすばらしく堪能だといいます(しかしその動きを支える筋肉を、ナマケモノはどこで鍛えたのでしょう)。つまりナマケモノは動きが鈍いのではなく、じっと動かないことで生存が保障されるので、がんばって(かな?)そうしているのです。決して怠けているわけでも鈍感なわけでもありません。

 広大な野生の地で鈍感でいられる動物は、おそらくひとつだけです。ライオンのオスは大草原に寝そべって腹を見せ、日中から高いびきで寝るといいますからたぶん彼だけが鈍感でいられるのでしょう。それはそうです。どんなに隙を見せても、雄ライオンは襲われる心配はまずないからです。

 かくして私の謎も解けます。私が鈍感なのは私が強者だからです(と家族には言っておきましょう)。

 あまりにも神経質でデリカシーを売り物にする人がいると、“おまえ、野生に近いよね”と言ってからかったりすることがあります。

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