「柿考」~昨日いただいた柿を頬張りながら調べたこと

 昔、ある先生が職員室で柿を頬張りながら「『柿が赤くなると医者が青くなる』って言うくらいだから、柿ってよっぽど栄養があるんだよね」と言ったところ、近くにいた別の先生が「それって柿じゃなくてリンゴでしょ」と言い出し、少し離れたところにいた若い女の先生が、「それトマトでしょ。トマトじゃなかった?」とか言ってしばらく盛り上がったことがあります。それぞれ「如是我聞(にょぜがもん)」(私はそのように聞いた)と言うわけです。 
 そこで調べたところ、大筋で次のようなことが分かりました。

 「○○が赤くなると医者が青くなる」で正しいのは「柿」。おそらく古くからある日本のことわざです。
 ところが外国にはこれと意味が同じ“An apple a day keeps the doctor away”(一日一個のリンゴは医者を遠ざける)というのがあって、気の利いた翻訳家が訳語としてこれに日本古来の「柿が赤くなれば、医者が青くなる」を当てたので混乱が起こったのです。
 訳としては素晴らしいものです。しかしおかげで、今では「リンゴが赤くなると医者が青くなる」も平気で使われています。また「トマト〜」はネット上ではイタリア由来と言う説が多く、「リンゴ」と「トマト」は国によって使い分けられたのかもしれません。いずれにしろ、「柿」も「リンゴ」も「トマト」も栄養価満点には違いなのですから。

 柿はアジアを主要産地とする栄養価の高い果実で、実を食用にする以外に果汁を発酵させた柿渋は、和紙に塗ると硬く頑丈になって防水機能も生まれるため、団扇や傘、紙衣などに使ったりします。葉も栄養価が高く、柿茶葉として飲用に用いるほか殺菌性があるために押し寿司を巻くのにも使ったりします。また初春の柔らかい若葉は天ぷらにすると美味しく、我が家でも春先にはよく食べます。
 材は緻密で硬く、家具や茶道具の材料として使われます。しかし加工がやや難しく割れやすいため、建材としては不向きのようです。

 柿に限らず果実は本来タヌキやサルに食べさせて種子を運ばせるようにできています。栄養豊かな糞とともに排出され、成長して新しい樹木になるのです。したがって種子が十分に成熟するまでの間、柿は“渋柿”として動物に食べられるのを防ぎ、熟柿となってからは甘さを増して動物を誘うようにできています。食される瞬間に種子が傷つけられないように、種子の周辺にはゼリー質がついていて、歯の間をするりと抜けるようになっています。

 完熟前に甘くなる「甘柿」は、突然変異によって生まれ品種改良によって商品となった日本独自の品種で、野生植物としては欠陥品です。
 収穫を感謝して、木の上にぽつんと残した熟柿は「木守り柿」と言います。

 ところで一週間ほど前、千葉県に行ったら、種類が違うのかそれとも夏の暑さで木が弱ったのか、あちこちの柿がすっかり葉を落とし、真っ赤な実を露にしていました。私の家の柿など、まだほとんど葉が残っています。また、千葉の柿がたわわに実をつけているのに、我が家の柿は葉の間にポツリポツリ見える程度で、おそらく例年の2割以下です。実家の柿はさらに悲惨で、いつも我が家の2倍はつけるのに今年は全滅です。春の寒さで花芽が片っぱし凍りついてしまったからです。
 なんとも寂しい秋になります。