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「配合禁忌(はいごうきんき)」~トリカブト殺人事件と沢田研二夫妻

 薬剤師の友人から聞いた話ですが、二種類の薬を服用したとき、その一方または両方がまったく効能を失ってしまうことがあるそうです。失うだけならいいのですが、二種類の薬が反応して有毒物を発生することもあります。こうしたケースを「配合禁忌(はいごうきんき)」といいます。

トリカブト殺人事件】

 1986年の5月、沖縄の那覇に到着した新婚夫婦の妻の方が、夫を那覇空港に残して友人3人と石垣島に向かいました。ところが島に着いて間もなく、新妻は突然苦しみ出し心筋梗塞で急死しまうのです。友人たちはまだ那覇空港に残っていた夫を呼び出し、夫婦は悲しみの対面をする・・・と、ここまではありそうな話です。しかしこのときは違いました。検死が普通より入念に行われたのです。
 というのは、この女性には18億5千万円もの保険金(保険料は月額18万円)がかけられており、その受取人が新婚の夫だったからです。しかもこの男の前妻も前々妻も心筋梗塞で急死しており、そのつど多額の保険金が支払われていました。
 検死の結果、案の定、遺体からはトリカブトの毒が検出されます。ただしそのあとは簡単ではありませんでした。なぜかというとトリカブト毒は即効性で、夫と別れてから2時間以上たってから苦しみ出したという事実と整合しなかったのです。
 捜査は難航しましたがそのうち容疑者に大量のフグを売ったという漁師が現れ、被害者の血液の再検査が行われます。そしてそこから微量なフグ毒が発見されました。つまりトリカブト毒とフグ毒の併用だったわけです。
 驚いたことにこの二種類の毒を併用すると配合禁忌が起こり、分解時間の短いフグ毒が消えるまで、双方は毒性を発揮しないのです。フグ毒が分解されて初めて、トリカブトの毒性が現れます。
 夫はこれによってようやく有罪になりました。まるで推理小説のような話ですが、「トリカブト保険金殺人事件」と呼ばれる事件の、これが顛末です。

沢田研二夫妻の配合禁忌とありうべき配合禁忌】

 かつて沢田研二というスーパースターがいました。一方田中裕子という女優がいて、杉村春子のあとを継ぐ20世紀の大女優になると期待されていました。ところが1989年、二人が結婚すると、まるで魔力が消えてしまったかのように二人とも普通の、全盛期を過ぎたただの歌手と女優さんになってしまいました。これなど人間の配合禁忌で、効能を消しあったとしか思えません。

 そうかと思うと“つまらない二人”が結婚したりコンビを組んだりして突然輝きを増すこともあります。相方を組み直したコメディアンや、ある種の夫婦によくある例です。
 このような“何の効用もない”二種類のものが混ざり合ってとんでもない効能を現すとか、大したものではないのに加えると一方の効能が飛躍的に高まるとかいった現象、これには何か名前があるのでしょうか。

 私は大したことのない人間ですが、さまざまな場でそうした現象を起こしたいと思っています。