カイト・カフェ

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「校則はこうして変える(その3)」~東京都議会ツーブロック問題⑦

 この校則は変えてもいいと学校側が腹をくくったら、あとは簡単だ。
 進む方向ははっきりしている。
 しかしその手続きまで簡単にしてはいけない。学校は学びの場だ。
 さらにそこまでして生徒が手にできる成果は、実はほろ苦い。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200730072936j:plain(「東京都庁」 フォトAC より)

【校則改正いよいよ始まる】

 職員会議を通過して校長の許可も出たら、あとはある意味簡単です。
 “ある意味”と言ったのは校則改正までの流れとしては一直線だからです。しかしその手続き自体は簡単ではありません。なぜなら池川東京都議のおっしゃる通りこれは、
「校則は大人によって変わるものでなく、子どもたちの意見を聞いて変わっていくものだと伝えること」
「今あるルールを受け入れることが全てではなく、ルール変えていくこともできるのだと議論」

することが目的だからです。
 署名を集めて持って行ったらすぐに変わったでは何の学びにもなりません。さらにそんなに簡単なことならと、ピアスだのタトゥーだのと次々と署名運動が始まっても困ります。そこで次のような手順を踏みます。
 
 

【校則改正の手順】

 校則改正までの道のりはおよそこんなふうになるはずです。
①集まった署名を生徒から校長に渡す。
 校長は検討することを約束する。
②学校長より、生徒会で話し合うように指示。
③校則改正委員会を立ち上げる。
 既存の生徒会組織を用いてもいいが、本来業務があるため別委員会を設置する。
 これは校則改正に積極的な生徒を多く取り込むことによって、学校側との意思疎通をしやすくするためという意味もある。
④第1回校則改正委員会(今後の活動の進め方)
⑤第1回生徒アンケート(本当に改正したいと思っているか、ツーブロックを許可しても大丈夫か等)
⑥第1回保護者アンケート(ツーブロックは許可されてもいいか、ツーブロックに対するイメージ等)
⑦第1回公聴会ツーブロックを禁止している学校側の意見を聞く)
⑧アンケート及び公聴会の結果に基づいて、校則改正に関する学級会を行う。
⑨学級会の結論を持ち寄っての校則改正員会。
 問題点があれば再度学級会へ(この過程を納得がいくまで繰り返す)。
*④~⑨については、必要な限り何回も行う。
⑩校則改正のための生徒総会。議事が尽くされたところで採決。
 賛成多数なら結果を校長に伝える。
⑪職員会議で確認の上、校長より校則改正委員会にツーブロックの許可を伝える。
⑫生徒総会にて校則改正委員会より報告。校則が改正される。

 ここまで丁寧なことをやると、必ず改正に懐疑的な生徒の意見も出て来ます。子どもは真剣に考えさせれば私たち以上に保守的な結論にたどり着く場合もあるのです。話し合いが話し合いらしくなります。

 過程が最後まで行かず、「やはりこれはやめておいた方がいい」といった方向に進むこともあります。そうなればもちろん廃案で構いません。改正委員会にはたくさんの推進派が入っていますから納得は得やすいところです。

 早い段階で、PTA総会などの機会に校長から保護者へ、丁寧な説明をしておく必要もあります。ある意味でこれが最も重要な手続きかもしれません。保護者の中にも「ツーブロックなんてとんでもない」という人は必ずいます。美容院に行く回数の増える髪型ですから、経済的な面でも心遣いが必要でしょう。
 いずれにしろ1年がかりの大仕事です。焦らず、注意深く、じっくりと進めましょう。きっとうまくいきます。
 
 

【この校則改正は欺瞞だ!】

 さて、実はこの話には大きなトリックがあるのです。
 それはこうして苦労してようやく成立した校則改正の恩恵に、3年生はまったく浴せないということです。1年かかりますから。
 校則が改正されたころにはもう卒業です。

 それを見越して2年生の内から(1年生の内から)というのも理屈上は考えられますが、そんな話は通りません。上級生は“自分たちが我慢してきたことを下級生が我慢しないで済む”といった話は大嫌いなのです。下級生からそんな提案があったらすぐに潰してしまいます。別に呼び出して脅す必要もありません。ただ冷たい視線を送るだけで下級生は理解するに決まっています。

 私にそそのかされてツーブロック規制廃止のために戦った生徒たちも、敢えて受験勉強の最中にツーブロックであちこち出歩かない限り(そんなことをしたらたいていはバカにされますが)、楽しむ時間はわずかです。
 あれだけ面倒くさいことを頑張ったのですから、そこで得られた成長は小さなものではありません。また、校則改正というそれまで誰もやらなかった仕ことを成し遂げた達成感も尋常ではないでしょう。それらを胸に、彼らには堂々と卒業していってもらいましょう。ただそれだけではかわいそうですから、私が必ず“誇り高い卒業”を演出します。
 楽しみにしてください。
 
 

【事後の問題】

 ところで、私は校則の改正の仕方を生徒に教えましたが、だからと言って生徒が次々と真似をしてピアスだのヘアカラーだのといった新たな問題を持ち込んでくることはありません。ツーブロック規制廃止がどれほど大変だったかよく見ていたからです。さらに改正を成し遂げたところで、成果が自分のものにならないことも見ています。

 ツーブロックを許したことで、タガが緩んで学校全体が荒れたりしないか――それは私たちが頑張ればいいことでしょう。指導の最前線が少し下がったわけですから、多少の緊張は必要です。しかしツーブロック自体はどうということはありません。

 大昔のギャルメイクのような“子どもがつくった子どもの文化”なら別ですが、ツーブロックという“大人がつくった大人の文化”は、中高生のレベルまで降りてくるころにはすでに寿命が尽きているのです。池川東京都議のいう「大人の世界ではツーブロックは非常にスタンダードな髪型です」が本当ならブームもそろそろ、中高生が真似したがるのもあと2~3年というところでしょう。流行は移ろいやすいのです。

 今回のコロナ禍のために授業時数が大幅に不足しているというのに、学級会やら生徒総会やらずいぶんと時間を潰してしまいました。
 その責任は池川都議にお願いすることにします。

(この稿、終了)