(アルフォンス・ミュシャ『スラヴ叙事詩「イヴァンチツェの兄弟団学校」』)
中学一年生の担任となった4月、一人の生徒から、
「理科室には並んでいくのですか?」
と訊かれて一瞬何のことか分かりませんでした。聞くと小学校ではそうしていたと。
軍隊でもあるまいし馬鹿げた話なので、
「そんなもの必要ない。道に迷わない自信があるなら(普通は迷わない)自分で行きなさい」
そう答えて別に問題はありませんでした。
小学校に異動して初めて5年生の担任になり、最初の理科室への移動の際、教室の後方で列を作るのにモタモタしている子どもたちを見て、
「そんなふうに並ばないでいいから、準備のできた子からどんどん行きなさい」
と自由に行かせました。自主性を重んじない小学校のやり方に反感があったのです。
そうしたら大変なことになりました。
わずか100mほどの移動だというのに、理科室に着かない子がいる。トイレに寄る子がいる、意味もなく遠回りをする子がいる、途中にあった掲示板の「子どもニュース」に気を取られて読み耽っている子がいる――。
やっとのことで全員そろえて、「じゃあ、学習帳をを開いて」と言ったら教室に忘れた子が一人。
その子が戻ってくるのを待って授業を再開し、数分後、
「このことについて、教科書で確認するね」
と言ったら今度は教科書のない子が二人。そこでハタと気づいて、
「筆箱持ってる?」「鉛筆と消しゴムは入ってる?」「今日は最初の授業だから赤ペンがいるっていったよね。持ってる?」
するとまた3人ほどが教室に向かって駆け出しました。
何のことはない、教室を出る時、全員を並ばせて持ち物をチェックすれば、こんなことにはならなかったのです。
東野圭吾のガリレオ・シリーズのキメ台詞を真似すれば、
「すべてのきまりには必ず理由がある」
世間的には理解できなくても、とりあえず学校内のルールに従っておいた方が安全だと思い知ったのはその時でした。
【学校も教委も「学校のきまり」を説明しない】
このように「学校のルール」「校則」「常識」には一見理解しがたいものがあります。そしてその大部分は説明可能なはずなのに、学校はいちいち説明しようとはしません。
先生たちは多忙ですし、教育委員会も暇ではありません。いったん何かを発信すれば果てしない論争に巻き込まれかねないからです。
ネットやSNSでいくら叩かれでも、静かにしていればいつか嵐はやみます。やまずに大騒ぎになったら、それはそれで個別に対処すればいいだけのことです。
「藪をつついて蛇を出すな」
「キジも鳴かずば撃たれまい」
「寝た子を起こすな」
「アテネにフクロウを送るな」
というわけです。
しかし個人は違います。
【勝負の場で、即答できなくてはいけない】
現場教師は常に教育の最前線で児童生徒と対峙し、保護者の目にもさらされています。場合によっては喧嘩腰で子どもを折伏し、保護者を説得してともに子どもを善導しなければならないこともあります。
それはしばしば一回こっきりの大一番。
子どもには「今、この瞬間こそ大きな飛躍できる」とか「生まれ変わるのは今しかない」といった「臨界期」があって、その一瞬を教師は取り逃がしてはいけないのです。
「なんでこんなことしなくちゃいけないんだよ!」
とか、
「どうしてそんなきまりを守らなくちゃいけないんだ!」
とか――、
あるいは保護者からの、
「~はどうしてこういうことになっているんですか」
という真剣な問いかけに対して、その都度、
「ハア、どうしてなんでしょうねぇ」などと言っていてはいけないのです。
一緒に考え込んでいるようでは次の指導ができません。
【質問されたらすぐ答えられるよう、訓練しておこう】
私には一種の信仰があります。それは先ほども言った、
「学校のすべてのきまり(ルール)には理由がある」
というものです。中には時代遅れになっているものもあるかもしれませんが、最初から無意味というものはひとつもありません。
なぜならきまり(ルール)はつくれば守らせる必要があり、どんな場合も守らせることは楽でないからです。
昔から多忙だった学校の諸先輩が、意味もないのにそんな面倒を受け入れるはずがないのです。無意味に見えるとしたら、それは私たちが意味を理解していないからです。考えなくてはいけません。
そこで私は20年近くも前にサイトの方で「なんのために校則はあるのか」を書いて学校が「きまり」を必要とする理由を示し、「あれほど細かな校則は本当に必要なのか」で、どうでもいいような「きまり」に重要な意味があることを明らかにしました。
しかしそれはほんの一部のです。
きまりは山ほどありますし、ツッコミどころも満載です。
さて、次のような内容に疑問が出された時、みなさんは相手が納得できる答えをいくつ用意できますか?
「体感温度は人それぞれだが、制服の冬服・夏服の期間を指定される」
「体育は一年中半袖短パンという決まり」
「下着の色にまで干渉する」
「筆箱の中は鉛筆5本と赤鉛筆1本、定規、消しゴム」
「消しゴムの色は白」
私はすべて答えられます(ということにしておきましょう)。
(参考)
学校のやることはいちいち説明しなくていけないのかもしれない
2018.12.04「給食中は私語一切禁止」学校を取り巻く“不自由”の実態
PC版 →http://www5a.biglobe.ne.jp/~superT/kiethout2018/kieth1812b.htm#i1
スマホ版→http://www5a.biglobe.ne.jp/~superT/kiethout2018/kieth1812sh.htm#i1