先週土曜日のEテレ「ウワサの保護者会」のテーマは「どうして勉強しなければいけないの?」でした。
番組の運びは、
- スタジオに集まった保護者同士で、子どもから「どうして勉強しないといけないの?」と問われて困った経験を出し合う。
- 子どもたちに気持ちを聞いてみる。
- 答えを持っていそうな人として実業家の堀江貴文(ホリエモン)氏、教育哲学が専門の苫野一徳氏の話を聞く。
- 保護者たちが感想を話し合う。
- 「どうして勉強しないといけないのか」の答えを見つけることができた親子の経験を聞く。
- 尾木直樹氏のまとめの話を聞く。
【“専門家”はかく語りき】
この中で堀江貴文氏は、
「正直、勉強する必要はないと思う。したくないんだったら」 「勉強をしなければならないというのは昭和の考え方。平成は違う。好きか嫌いかが大事。
好きなことは熱中できるから一生懸命やるし、伸びる。今は好きなことを伸ばしていった方が有利」
と語り、苫野氏は、
「まず、勉強をする理由に絶対的に正しい答えはない、ということを理解しておいた方がいい。
学びの主人公は自分であって、人にやらされるんじゃなくて、やりたいからやるというのを持てたら強い」
というお話をします。
答えを見つけることに成功した親子の経験として、
星が好きで将来は天体望遠鏡をつくりたいと願う娘を、大学のオープンキャンパスに連れて行ったところ、そこで「大学は好きなことだけをずっとやっていいところ」という話を聞き、「星の勉強をするためには数学や英語も必要」というアドバイスを受けて、それから夢中になって勉強するようになった、
そういうお嬢さんのお話が出されました。
尾木先生は最後に、
「子どもたちの好きなことをしっかり応援してあげる。好きなことだからグーッと広がる。壁にもぶつかるが、突破していくのは学びの主人公の子ども。そうすればすばらしい人生を送るように変われる」
とまとめ、スタジオの保護者も深く納得したようにうなづいて番組は終わります。
しかし本当にこんなので納得できたのでしょうか?
【普通の子――勉強をしない人生が思い描けない】
番組の中で本当に価値ある提言は、もしかしたら「勉強をする理由に絶対的に正しい答えはない」だけかもしれません。全員が納得してしかも具体的な学習につながるような答えはない、そういう意味です。
年齢によって、目標によって、生き方によって、それぞれ違うのです。
例えばホリエモンの「勉強する必要はないと思う。したくないんだったら」も、ひらがなの勉強が嫌い、掛け算九九がイヤという子どもに対して言えることでしょうか。
「好きなことは熱中できるから一生懸命やるし、伸びる。今は好きなことを伸ばしていった方が有利」
も、番組後半に出てきた星や天体望遠鏡に対する興味なら余裕を持って見守ることもできますが、コンピュータゲームが好き、アイドルが大好きといった子どもを野放しすることには抵抗があります。親にはなかなかできない。
ウチの子どもが第二の大谷翔平や藤井聡太と分かっていれば学校の勉強なんかさせません。朝から晩まで野球や将棋をしていても精いっぱい応援できます。
中学校時代にデビューして瞬く間にスターになった中山美穂も高校には進みませんでした。宝塚のスターたちだって大部分は中卒か高校中退です(宝塚音楽学校は専門学校ですから)。
でもこの人たちに理科や数学の重要性を説いて高校に戻すのは難しいし、そもそも馬鹿げた話です。芸能に才能ある人たちは、それを目いっぱい伸ばしていけばのです。
しかし普通の家の普通の子たちは違う。
私の家の子もそうでしたが、どこに才能があるのか分からない、というか普通の子は飛びぬけた才能なんかない、だから落ち着かないのです。コンピュータゲームが大好きで、隙があれば何時間でもネットゲームにはまり込んでいるウチの子が、学校のテストで毎回20点、30点でもゲームクリエーターとして世の中を渡っていける、そう信じるのは難しいことです。
最近はプロのゲーマーというのもいるらしいですが、それだってもしかしたらプロ野球選手になるよりも難しい。
「好きなことは熱中できるから一生懸命やるし、伸びる。今は好きなことを伸ばしていった方が有利」
と言われてもその先にあるのが全く見えない。だったら特別な人生でなくてもいい、普通に勉強して普通に成績をとって、普通に高校に進んで普通に就職してもらいたい、そう思うのが親心です。
一部の人にとってはさらに深刻で、
「勉強する必要はないと思う。したくないんだったら」
では済まされない状況だってあるのです。
(この稿、続く)