「はじめの一歩」

 娘のシーナが引っ越しをするので東京まで手伝いに行ってきました。
 引っ越し自体は業者に頼んでしまったので大した仕事はなかったのですが、婿のエージュが休めなかったので赤ん坊の世話をする人間が必要だったのです。ハーヴと会うのは2か月ぶりでした。
 生後十か月になりますが、今回は特別に違ったことがありました。寝返りをうちズリバイ(ズルズルと腕だけで這う)もするようになったのです。もっともズリバイは後退のみでそれもたいへんゆっくりとしたものですが、これができれば一か月後くらいにはハイハイも夢ではありません。たいぶんそうなるでしょう。

 2月4日のブログにも書きましたが、生後7か月で体重が9kgもあったハーヴはその重さのせいもあるのか、いつまでたっても寝返りもしなければハイハイの予兆すらもありませんでした。8か月になっても9か月になっても、そして生後十か月の日を迎えてもダメでシーナは腹を決めつつありました。この子は寝返りもハイハイもしないままなのかもしれないということです。

 寝返り・ハイハイは発達課題ではなく、両方ともしないまま大きくなる子はいくらでもいます。ですから大した問題ではないのですが、それでもシーナの心の隅にはシコリとなって引っかかっていたようです。普通の意味で「寝返りもハイハイもしなまま大きくなる」ならいいのですが、別の意味でやらないとしたら、それはそれなりに覚悟が必要だからです。普段は忘れたように振舞っていますが出産時のトラブルは忘れられないようで、一般的な(あるいは一般的と信じられているような)成長の過程を経ないと落ち着かないのです。
 首が座ること、お座りができることそして笑うことは(決定的ではありませんが)それぞれ発達課題です。それができないと何か重大な問題が隠されている可能性があります。ですからハーヴの首が座り、お座りができるようになり、声を立てて笑うようになると、シーナはそのたびに大きな階段を登ったようで大きく胸をなでおろしていました。
 ですから苦にしなくてもいい、寝返りもハイハイもしない子はいくらでもいると頭ではわかっていても、やはり引っかかっていたのだなと、最近気づきました。

 ハーヴがどういうきっかけで「寝返り」を覚えたのかわかりませんが、先週の木曜日、それは突然やってきました。シーナの目の前で突然グルッと回って見せたのです。シーナは手を打って喜んだようですがハーヴ自身は驚いた上に困り果てたみたいです。うつ伏せなんて大嫌いだったからです。
「何がいけなかったの分からないけど、気がついたら不本意にもうつ伏せになってしまった」そんな感じです。しかしクルクル転がることには魅力があったのかもしれません。ここに子どもの成長の不思議があります。

 私がハーヴに再会して寝返りを見たのは、初めての寝返りからわずか五日目のことです。たった五日なのに、ハーブは私たちの目の前で何度も何度もゴロンゴロンと回って見せるのです。あれほど嫌がっていたうつ伏せも苦にせず、しばらくすると腕で強く床を突き放し、ゆさゆさと体をゆすってゆっくり後ろに移動していきます。私がハーヴの背後に移動すると、その姿を目で追いながら180度回転することもできます。驚くほどの変化です。

 はじめの一歩。それが大切なのです。
 寝返りは最初の1回ができればいい。2回目・3回目はすぐにできるようになる。
 ズリバイも最初の1回ができればいい。それが可能だとわかると人間は必ずするようになる。
 逆上がりも最初の1回ができればいい、
 自転車も支えなしで1回だけ走れればいい、
 走高跳も、例えば1m20cmをまず1回跳べることが必要、
 1回できればあとは必ずできる

 もしかしたら私の年齢になってもそういうことはあるのかもしれません。
 ハーヴの姿を見て、私も自分の「はじめの一歩」を探してみようという気になりました。