カイト・カフェ

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「キャリア教育で息子がモテた話」~私が唯一信頼する追加教育

 私が教員になったころはエイズ教育なんていうものはありませんでした。金銭教育もなければコンピュータ教育もなく、交流教育も環境教育もあとから追加されたものです。小学校の生活科も外国語活動もなく、総合的な学習の時間だってなかったのです。性教育や人権教育はありましたが、今よりはずっと小規模でした。

 こうした「追加教育」に右往左往しながら、なんとかかろうじて凌いでいたらある日突然、「ところで国語や数学はどうなっているの?」と言われたのが学力問題の本質です。
 しかし今日はその話ではありません。

 いわゆる追加教育の中で、唯一私が信頼を寄せているのはキャリア教育です。それは1999年の中央教育審議会答申(「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」)でこんなふうに説明されています。
「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身につけさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」

 実際にさまざまな取り組みがなされていますが、その中核となるのが職業体験です。小学校の先生にはなじみが薄いのですが、中学生(普通は2年生)がそれぞれの希望にしたがって職場を選び、一定期間働かせてもらうのです。

 期間については学校が独自に決められますが、1日という学校もあれば一週間というハードな場合もあります。私の息子の場合はそのハードな方で、連続一週間(実際には五日間)の実習でした。

 もっとも選んだ職種によって落差は大きかったようで、鉄工や土木関係に行ったグループはボロボロになって帰ってきましたし、同じくたいへんそうな農家の方は雨が三日も降ったのでほとんど何もできなかったようです。また小学校に行った子たちは授業までやらせてもらったと喜んで戻ってきましたし、ケーキ屋さんに行った子は一応ケーキらしいものを仕上げるところまでやらせてもらいました。それぞれ多少の差はできてしまったみたいです。

 ただし五日というのは全員に意味があったようで、例えば鉄工や土木に行った子たちは三日くらいで完全にアウトになり、しかたなく出かけた4日目で多少楽になり、最終日にやっと「これなら、やっていけそうだ」といった気持ちになったと言います。すべての子がなんとなく「やれそう」な気になるためにはやはり五日は必要なのでしょう。

 息子が行ったのは幼稚園でした。基本的に女性が圧倒的に多い職場で、そこに若い男の子が来たのでたいへんモテたようです(園児に)。

 常に周囲に子どもたちがまとわりつき、遊びに走り回り、その合間に給食の準備をしたりと、けっこう楽しかったようなのですが、息子にはひとつ気になることがありました。それは担当のクラスの中に、どうしてもなつかない女の子がひとりいたのです。他の子が“だっこ、だっこ”とうるさいくらいに近寄ってくるのに、その子だけが来ない。
 そんな子が四日目の午後、突然近寄ってきて「だっこ」と言って手を伸ばしてきたのです。それが一番嬉しかったと息子は言います。連続五日でなければ起こらなかった事件です。

 こうした長期の実習は、さまざまな条件が揃わなければできませんから一概には言えませんが、やはり子どものうちに“職業”の現場を体験しておくことは大事だな、と思いました。

 ちなみに、職場体験を通して息子たちが持った感想の第一位は「お父さん、お母さん、ありがとう」です。ほとんどそれ一色といっていいほど、親への感謝が感想の中に溢れていました。