カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「プロの技術」~やはりそういうものを見せてもらわないと――

 何で読んだのか覚えていないのですが、こんな物語に記憶があります。

 まだ人心の荒れていた戦国時代、ある戦いでひとりの武将が捕らえられた。敵方の大将の前に引きずり出された彼はカッと目を見開き、こう叫ぶ、
「この恨み絶対に忘れん。七度(たび)殺されても七度生き返って、お前の家を呪い祟ってやる」
 すると大将は涼しい顔で、
「俺は信じぬ。お主にはそのような力、とてもありそうに見えん。できると言うなら、ホラ、これから俺が首を刎(は)ねるから、刎ねられた首のままあの石灯籠に食らいついてみろ」
 武将は目を赤々と燃やし、さらに大将を睨みつけ石灯籠を見た。すると大将はすっと近づき、笑いながら、
「お主にはできん」
 そう言って、たちまち首を刎ねてしまった。その瞬間、首は血を吹きながら一気に宙を走り、そのまま大口を開けるとしっかと石灯籠に噛みついたのだ。
 見ていたものは恐れおののき、その場を逃れようとした。すると大将はまたかっかと笑いながら、
「大丈夫だ、祟ることなんかできん。こいつは首を刎ねられる瞬間、ただひたすら石灯籠に食らいつくことばかりを念じていた。そんなヤツに、祟る力なんか残っておらんよ」

 ついでに思い出したことがあります。
 娘が3歳になったときスイミングスクールに入れました。その初回は女性コーチが娘を抱っこして、マン・ツー・マンで水慣らしをしてくださいました。初めての子はみなそうだったのかもしれません。

 見ているとそのまま大プールに入り、しばらく何かを話しながら、お風呂にでも入れるように水の中を動いていました。そしてトントンと軽くジャンプしたのですが、何をするのかと思う間もなく、いきなり一緒に水の中に潜ってしまったのです。私は飛び上がらんばかりに驚きました。そんな乱暴な水慣らしがあっていいはずがありません。

 ところが娘はコーチに抱かれたままピョンと飛び出すと、左手で顔をペロンと拭いて右手を高々と上げて、ピースをしたのです。怯えた様子も勝ち誇った様子もありません。それで私は何が起こったか、すぐに理解しました。

 水に沈む前、コーチはきっとこんなふうに言ったのです。
「これから水に潜ってみるからね、出てきたら手をうんと、うんと高く上げてピースをするのよ」
 娘はただひたすら一心に「手をうんと、うんと高く上げてピースする」ことを念じて潜ったのです。潜る恐怖も頭まで水に漬かる不快も、まったく忘れてピースにかけたのです。

 私はこういうプロらしい仕事が大好きです。

*最近、車の中では「ライオン・キング」のCD(英語版)ばかり聞いています。劇団四季で見たときはさっぱりいいと思わなかったのに、CDで聞くと格別です(きっと子ども向けのストーリーが嫌いなのでしょう)。
 編曲といい、歌唱といい、アマチュアには絶対できない、プロの仕事が感じられるからです。