カイト・カフェ

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「日本が汚れる」④〜テレビ、洗濯機、高級時計

 セイコー社(セイコー・ホールディング傘下の企業)は日本の企業にふさわしくかなりまじめな営業をしています。腕時計のマニアでなければあまり知られていないところかと思いますが、アルバ・ブランドからクレドール・ブランドまで、実に幅広い時計作りをしているのです。一方で流れ作業による機械生産で安価な時計を作っているかと思うと、他方で宝飾時計にも手を出しているということです。

 アルバは中進国の時計生産と競合し、50万円〜60万円という価格帯のグランドセイコーはオメガやロレックスと競合します。数百万円あるいはそれ以上の価格帯にはカルティエやブルガリ、ショパールなどがありますが、クレドールはそれらと対応しようとしているのです。
 クレドールのマスターピースとなると1千万円を超えるものもありますがこの領域ではセイコーももはやブランドとは言えません。「ボクはカルチェ」「私はブルガリ」「オレ、セイコー」と言ってみれば自ずと力の差を思い知らされます。それでもセイコーが作るのをやめないのは技術を保全するためなのです。

 例えばダイヤモンドを埋め込む技術。――天然石ですのでどんなに似たサイズのものを集めても同じということはありません。したがって時計本体に埋め込むためには一個一個に合わせた彫金を施す必要があるのです。その技術は一朝一夕に手に入るものではありません。辛抱強く磨き、保全するするしかないのです。
 時代や時期によって需要は浮き沈みしますから、すべてのブランドに対応しておくことは、将来にわたって生き残り良い仕事をするための必須条件なのです。

 世の中、必ずしも良いもの正しいものが勝利するとは限りません。分かりやすいビデオ機器戦争を例にとれば、古くはベータ対VHS、LD対VHD、8ミリビデオ対VHS-C、Blu-ray DiscHD DVD。それぞれの戦いで必ずしもより性能の良いものが勝ったわけではありませんでした。しかし確実に言えることは、これらはすべてすでに終わった戦いだということです。もはや家電で日常的にベータマックスやVHSを使っている人はいませんしLDやVHDも残っていません。
 結局、完全な勝者は、一方でビデオ戦争をしている最中に次世代のビデオ機器をまじめに開発していた人々です。そうした真摯で向上心の高い人々が勝つようにできているのです。

 液晶テレビでも白物家電でも日本の連勝は止まってしまいましたが、次の世代へのまじめな研究がある限り日本は最終的に生き残るのです。

 ガラパゴスマーケティングの失敗だのといった非難に惑わされず、これまで培ってきた職人気質を汚されることなく、誠実に向かい合うことだけが真に生き残る道だと、私は信じています。