カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「『TOKKATSU』―日本の現状」~特別活動のドーナツ化現象②

 エジプトやマレーシアなどでもてはやされる日本の「特活」。
 しかし日本では十分な時間が取れなくなりつつある。
 ではどうしたらよいのか。
 NHKは二つの学校の事例を通して考えようとする。
という話。(写真:フォトAC)

 先週12月6日(水)のNHKクローズアップ現代では、『世界が注目!日本の教育「TOKKATSU」 特別活動の意義は』というタイトルで、日本の学校の「特別活動」(*1)という教育が海外で評価され、日本で見直されている実情が報告されました。(以下、続き)

【「TOKKATSU」―日本の現状】

 番組では前半、海外でTOKKATSUがもてはやされている事例としてエジプトの様子を報せ、後半で日本の状況を紹介しています。
 後半の冒頭はこんな感じで始まります。
 その特活ですが、実は日本では縮小傾向にあることが今回分かりました。
 番組が専門家とともに都内の公立小学校を対象に調査しました。2023年度、学校行事をコロナ禍前と比べて削減したか聞いたところ「はい」と答えた割合が9割近くに上りました。
 また、運動会については2023年度「午前のみ」と答えた学校が7割を占めていたのです。
 背景には、学校の先生の負担が極めて大きくなっているという状況があります。文部科学省の諮問機関である中央教育審議会はことし8月、学校の授業時間の見直しに加え“学校行事の精選・重点化を図る必要がある”と提言しています。こうした中、子ども主体の教育をどうしたら守っていけるのか。現場では模索が続いています。

 そうした流れですので、これはてっきり特活が縮小された日本の学校の実情が示されるかと思ったら、案外な方向に進みます。ひとつは縮小とは程遠い特別活動、特に学級会活動へののめり込みの事例です。

【今も理想を追う】

 場所は東京都の板橋区です。
 2022年から「学級活動の日」を設け、地域や保護者に公開するなど特活に力を入れることにしました。
 番組ではそんなふうに紹介されましたが、板橋区全体がそうした方向に舵を切ったのか、板橋区にある一つの学校が力を入れ始めたのかはよく分からないところでした。しかし子どもを信頼し、子どもに任せて学級会を運営しようという試みは、昭和時代にも繰り返し追究され、いくつかの成果と挫折を生んできたものです。

 私はそうしたやり方がとても苦手で、番組の中で教育員会の指導室長が、
《子どもに任せてやらせるよりも、自分が仕切った方がどんなにか早いというのがあるじゃないですか》
と言う、まさにその「自分が仕切った方がどんなにか早いし正しい」と感じるタイプの教師でしたから、とても苦しんだのです。だからよく覚えてもいますし、番組に出てきた新卒3年目の担任の、
「私は何もしないよ。学級会でも口を挟まないよ。自分たちで進めていきなという風にやったら、ほかの給食当番とかでも自分たちで声を掛け合ってやっていたり、言われなくてもできるというのができてきたので、鍛えた力が、そこで発揮されているのかな」
という言葉を眉に唾をつけて聞き、室長の、
「令和の日本型学校教育。教え込む授業ではなくて、子どもたちが学び取っていく。そういったことが言われていく中で特活やることによって、そういった先生方の指導観が変わっていくんじゃないか」
も、《それは令和どころか昭和の昔から言われ続けてきた教育で、しかも50年かけて定着しないものは(私のような)普通の教師の、日常の努力では達成できないものに違いない。だから、それが当たり前だと標榜しないでくれ》と叫びたくもなります。

 ただしもちろん、才能ある教師が簡単に成し遂げたり、普通の教師の異常な努力で達成したりといった違いはあっても、学級会を中心とした学級運営という理想が実現可能であるということを、発信し続けるのは必要なことです。
 手間暇かかっても学級会のできるクラスを育てれば、それが結局、教師の時間的・精神的余裕を生み出す――その到達点を見せなければ、誰もそこへ向かっていけないからです。
 それが板橋区の示した、特活のひとつのあり方です。

【内容を濃くして縮小する】

 日本国内における特別活動の在り方を示すもうひとつの事例は、
 時間を短縮しながらも教育的意義を高めようとする学校もあります。この学校では、コロナ前は1日をかけて行っていた運動会を午前のみに短縮。その代わり目的を明確にして挑んだといいます。
というものです。

 取材を受けた学校の校長先生は、
「コロナ禍でさまざまな関わり合いがなくなって、何よりも学校というのは人との関わり、これが一番大切なものだというふうに改めて認識をしました。なので今回の行事においても、そんな関わりの広がるようなそんな行事にしたいと感じた」
とおっしゃいます。特活の趣旨にピッタリです。

 力を合わせる経験をしてほしいということで団体競技は2学年一緒に実施し、関わり合いを深めながら時間短縮もはかることにします。表現種目は全学年の前で実施する一方で、徒競走の時間は熱中症対策もあって他の学年は教室に戻って休憩。最高学年の6年生はゴールテープ係や誘導係など、運動会の運営を手伝う役割も担いますが、コロナ前まであった応援団は復活することはなかったようです。責任感を養う係活動を優先したと番組では言っていましたが、私の経験では応援団も応援係という係活動のひとつですから、むしろ応援時間および応援練習の時間を節約したかったのでしょう。
 
 ここで番組は運動会の統括責任者の、若い教師の発言を長く引用します。
「どういう形にするのがベターなのか、時間の許されるかぎり、どこまで保護者の願いに応えて子どもたちが輝く場を作ってというところはすごく悩んだ。もっとやりたい部分もありながら、それでは成り立たないっていう。そこは悔しいところもあるんですけれども、子どもたちの活躍の場は残していくべきじゃないかなっていう風には感じるので。この時代に合った形で、こういった行事を行っていけるのが、この先いいんじゃないかなと感じます」

【学校を追いつめるもの】

 板橋区教育委員会が示した特別活動のひとつの在り方(手間暇かけて学級会のできるクラスを育てれば、それが結局、教師の時間的・精神的余裕を生み出す)も、運動会の内容を濃くして規模を小さくし、時間を短縮しようとした小学校の事例も、実は同じ困難を乗り越えようとする違う試みです。
 番組ではそれを学校の先生の負担が極めて大きくなっているという状況がありますという言い方で説明していますが、私は平成以降、運動会を始めとする特別活動が過熱し、負担が大きくなったという実感を持っていません。
 負担は別のところから来ています。そしてそれは学級会や運動会に比して意味ある負担だとは、どうしても思えないのです。
(この稿、続く)

*1:番組では次のように説明されました。「日本では、国語、社会、算数、理科などに加えて、協調性や課題を解決する力などを育むことを目的に、この特別活動が、国の学習指導要領で定められています。具体的には、学級活動、委員会活動、クラブ活動、そして学校行事です。こうしたものに加えまして、日直や掃除(給食当番)など子どもが主体となって学校を運営する、日本独自の特活