カイト・カフェ

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「台風がやってくる」~せっかくの機会だから台風について話しておこう

 台風2号が近づいている。
 こうした機会に繰り返し防災教育をしておくことは大切だ。
 だが同時に、科学としての台風についても話しておきたい。
 滅多にできない体験学習なのだから。
 という話。(写真:フォトAC)

【私の十八番】

 台風2号がやってきます。
 台風ネタは私の十八番で、そもそもが「北半球ではコリオリの力がすべてのものを右に曲げるように働くはずなのに、なぜ台風だけは左巻きなのか」とか、「なぜ南の海で生まれた台風は右カーブで日本に来るのか」とか「そもそもなぜ台風は『台の風』なのか、『台』ってなんだ?」とか、山ほどの疑問がありましたから、かなり熱心にあれこれ調べたものです。
 調べて何かわかると誰かに話したくなるのが人の常。私が教員である間じゅう、そして自分の子どもがまだそばにいる間じゅうは、今日調べたばかりのことをあたかも昔から知っていたかのように話して、子どもたちの歓心を買おうとしていたものです。
 その成果の一部は5年ほど前にこのブログでまとめて書きましたから、今日はリンクをつけるだけにしましょう。

  1. 「台風」の語源・台風が左巻きの理由
  2. 台風はなぜ右カーブを描いて日本に来るのか・台風の名前
  3. 台風の日、実は管理職はそれなりにがんばっている

【知らないこと以外は何でも知っている】

 たいした話でなくても、子どもは台風2号の「2号」の意味すら分かっていませんから、一部分を話すだけでも感心してくれます。

「先生、何でも知っているって言ったよね」
「ああもちろん。知らないこと以外は何でも知っている」
と、それだけでも尊敬を集めること間違いなし。何か答えられないことが訊かれたら、
「ウン、それは先生の『知らないこと』の中に入る話だから、知らない。今度調べておこう」
 そう言えばいいだけの話です。ただしそう約束した以上は必ずその日のうちに調べておかなくてはなりません。質問した子どもの方はほぼ絶対に忘れないのに対して、こちらは忙しさに取り紛れてついつい忘れてしまうことがあるからです。
 また「今度」には時間的な幅があって、どうやら短い子は極端に短い。翌日には成果が手に入らないと教師を見限ってしまうこともありますから要注意です。

【台風には名前がある】

 さて、言うまでもなく台風の1号・2号はその年に生まれた台風の順番で、現在本州に近づいているのは2023年に太平洋で生まれた2番目の台風ということになります。ただ、2号は毎年発生しているので前の年、あるいは何年か前の2号と区別する必要があり、そこで気象庁は今回の台風を202302号と呼んで区別しているみたいです。わかりやすいと言えばわかりやすいですが、味気ないと言えば味気ない。

 アメリカ占領時代は主として女性の名前のついた台風が記録され、それ以後、被害の大きかった台風には被災地の名前をとって「加納川台風」だの「伊勢湾台風」だのと名づけた歴史があります。ですから何となく名前が欲しい。

 北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14カ国等が加盟)は、平成12年(2000年)から、同領域に共通のアジア名をつけることにしてあります。*1

 14カ国がそれぞれ10個ずつ提案した台風の名前は、齢に関わりなく順番に使われ、140番が終わったら1番に戻ることになっています。現在23年目ですから、毎年20個ずつの台風が発生すると考えると460個。140個の名前は4週目に入るか入らないといったところでしょう。東アジア・東南アジアの国々は、台風をこの名で呼ぶことが多くなっていますが、日本ではなぜかまったく定着していません。
 ちなみに、調べると今回の202302号台風の名前はマーワー(Mawar)。マレーシアが提案したもので意味は「バラ」です。名簿登載番号は134番ですから、3周目の終わりにいると考えるのが妥当でしょう。テレビの海外ニュースなどで現地の台風報道が流される場合はぜひとも耳をそばだててみてください。きっと「マーワー」「マーワー」と何度も叫んでいるはずです。

【実証的な体験をさせたい】

 台風が近くを通る予定の学校の先生方は、子どもたちに風向きに関する知識を与えておくといいかもしれません。
 南から真っ直ぐ上ってきて頭上を通過して真北に向かう台風があるとすると、風は常に台風の中心に向かって吹いていますから、
「もし真南から台風が真っ直ぐ近づいてくるとするとね、まず北寄りの風が次第に強くなってきて、やがてとんでもない暴風雨となり、『これは避難の機会を逃したかもしれない』と、そんなふうに思える状況になる。窓から外を見るとトタン屋根がはがれて空を飛び、大型のトラックも左右に振れて倒れそうになっている――。ところが次の瞬間、突然、風が止まる。何の音もせず、空を見上げると、昼ならば青空、夜ならば星が見えるかもしれない。台風の目に入っている状態だ。
 しかし外に出てはいけない。いくらもしないうちにまたとんでもない暴風雨が始まって立っているのも困難になるからだ。風向きについてはしっかり確認しておこう。台風が真北に去ったとすると、そのあと吹く猛然とした風は、100%南風なのだ。去った台風に向かって、風が猛然と追いかけていく、そんな感じだね」

 コースが逸れなければ、予言通りのことが起こるはずです。逸れた場合のことも話しておくといいかもしれません。
 科学の面白さは「仮説が実証されるところ」にあります。そんな経験をした子どもたちのうちの何人かは、将来、科学を志してくれるかもしれません。