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「不登校問題の専門家たちが仕事をしていない」~不登校もいじめも過去最多について⑤

2021年度「問題行動・不登校調査」の結果によると、
不登校はわずか1年の間に、25%、5万人近くも増えてしまったという。
それなのに世の人々は何の感慨もなくやり過ごしてしまい、
こころの専門家たちは空しい助言を与えるばかりなのだ。
という話。(写真:フォトAC)

不登校が1年間で25%も増えても誰も動かない】

 10月27日に公表された2021年度「問題行動・不登校調査」によると、病気や経済的理由などとは異なる要因で30日以上登校せず「不登校」と判断された小中学生は24万4940人と過去最高を記録しました。
 1998年以降12万人から14万人程度で高止まりしていた不登校の児童生徒数は、2012年ごろから急激に数を増やしていき、21年度はコロナ禍の影響もあって24万人台に急増したのです。20年度が19万6127人でしたから、前年度から24・9%、4万8813人も増えたことになります。
 しかし不登校が社会問題になってからすでに50年近く、私たちはすっかり慣れ切ってしまい、NHKですらニュースの中に2~3分の枠をつくって関心を見せただけです。追って特別番組を組むといったふうもありません。

 考えてみれば「近所の何々さんのお嬢さんが不登校だって」「甥の◯◯が学校に行ってないんだって」と、不登校は日常会話の中に頻繁に現れ、しかも何の感慨も起こさず通り過ぎていってしまいます。これが30~40年前なら親はひた隠しに隠し、知った親戚はおっとり刀で駆けつけて用もないアドバイスをするといったふうでした。しかしもはや誰も名案を持たないことは明らかですから、みな「そっと見守る」という形で問題に触れないようにするのが精いっぱいとなっています。わが身にことが及ばない限り、実質的な放置です。

【トンチンカンな対策、そしてみんな忘れてしまった・・・】

 一時期、不登校は学校の厳しい受験体制と管理のせいでした。
 学習過剰な児童生徒など何十年も見たことがなく、管理の行き届かぬ子どもたちが目の前で跳ね回るのを目の当たりにしていた私たち田舎者は、大いに戸惑いましたがそれでも勉強しろと言うのを控え、校則を緩めるなど管理もほどほどにするよう努力しました。それでも不登校は増え続けます。
 
 別のとき、「登校を強いる学校と教師こそ不登校の元凶」「登校刺激は一切与えず、学校や教師を連想させるすべてのものを遠ざけること」などと言われ、教師は問題から手を引くよう強く求められました。私などは激しく抵抗して不登校の子を手放さないよう努力しましたが、「一切登校刺激を与えるな」は一面で教員に楽をさせるものであったため、全体としては手を出さない教師が増加しました。そして保護者は孤立しました。
 児童相談所は3か月待ち、病院に行っても訳の分からない診断と薬が与えられるだけで何の変化もない。親はただ焦りを募らせ、恐怖に打ち震えている――そういう時期もずいぶん長かったように思います。
 
 学校カウンセラーが決め手になると思われた時期もありましたが、配置してみると、あんがい心理学も万能ではありませんでした。

 

 やがて児相は不登校問題から手を引き、学校は打つ手を打ち尽くし、医者は進化のない治療を淡々と続ける、そして世間は自分の家族がならない限り、不登校への関心を全くなくしてしまったのです。

【家族の大変さはむしろ昂じている】

 私も関心を失ってしまったひとりです。
 元教師ということで相談を持ち込まれても、もはや差し出す何の有効な方法も手の内にないからです。それに私のようなまったくの赤の他人のところへ持ち込まれる話は、すでにこじれにこじれ切っていて、普通の意味での助言すら難しくなっているのです。手を打つのは早ければ早いほどいいのに。
 
 ただ先々週のNHKニュースの中で、ひとつだけ心を動かされた場面がありました。それは不登校の子どもをもつ家庭が、しばしば経済困難に見舞われているという話です。
 出てきたのは若いシングルマザーですが、子どもが朝、学校に行くかもしれないといった状況になるとどうしても側にいてやりたくなり、そのために勤めを遅刻する、登校したら登校したでいつ学校から連絡があって迎えに行かなくてはならないかもしれないので欠勤して様子をみる、そんなことを繰り返しているうちに給与から引かれる額が月に10万円近くにもなったというのです。もともと高給を取っているわけではありませんから10万円はとんでもない痛手です。このままでは母子共倒れしかねません。
 不登校を解消するための何の手立ても与えられないにしても、誰かがそばにいて母親の一部を肩代わりし、母子を守らなくてはいけないと、そんなふうに思いました。


 私が担任教師をしていた時代なら、教師がその役の一部を担ってともに考える余裕もあったのです。しかし現在の、特にコロナ禍以来の教師の忙しさは半端ではありません。「そばにいて一緒に悩む」といったことですらできなくなり、保護者の多くがさらに孤立無援になってしまったのです。
 では今から何ができるのか――。

【専門家たちが仕事をしていない】

 私は子どもの問題に関して、専門家たちが具体的なアドバイスをしないことに苛立っています。先々週のNHKニュースに出てきた支援の会のアドバイザーも「むやみに登校を迫ることなく、子どもを受け止めてあげてください」といった言い方をします。「受け止めてください」はわずか30秒ほどの放送の中で3回以上使われましたが、具体的な話は一切ありません。どうしたらいいのでしょう? キャッチボールの話をしているのではないのです。

 他にも、「受け入れる姿勢で」「寄り添って」「こころの居場所をつくって」。いずれも分かるようで、いざ実践しようとすると何をどうしたらよいのかさっぱり分からない助言です。こうした「専門家」の曖昧さは、不登校問題が始まってから一貫したもので、もちろんその中には教師も入っていたのです。
(この稿、続く)