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「怖い顔で叱る」~子どもの認知③

 2歳3歳の子どもには心の理論が成立していませんから、「他人には自分とは別の感情や考えのあることを理解し、それを類推する」ことはほとんどできません。自分にとって楽しいことも他人が楽しめない場合があるということが分からないのです。

 よく「どんな小さな子にもきちんと説明して納得させなければいけない」と言ったりしますが、4歳より前の子に「ダメでしょ、そんなことすればお友だちが悲しい思いをするでしょ」と言っても“お友だち”に別の感じ方や考え方があるなど想像もできないのですから、それでいうことを聞くはずがありません。しかしそうであるにもかかわらず、お母さんに叱られた子どもはその行為をやめ、今後もしないでおこうと決心します。それはなぜでしょう。

 ポイントはその時のお母さんの表情や声です。いつものうっとりするほど柔らかな表情と優しい声が一変し、鬼のような形相と強い口調がそこにある―それに子どもは恐怖するのです。

 それは例えば電車の中で、さっぱり落ち着かない子どもに対する母親の態度を見ていたりするとわかります。
 親がいくら注意してもきかない子どもは、そもそも注意する親を見ていません。座席に乗ってあちこち移動するのに忙しく、お母さんがいくら「ダメでしょ、ほかにもお客さんがいるんだから、じっとしていなさい」などと言っても聞く耳を持たないのです。

 ところが優秀な母親は子どもを押さえつけ、きちんとこちらを見させてから強く叱責します。おそらくそういう性格なのです。どんな小さな子であっても、自分の話をいい加減に聞かれるのが嫌いなのです。先に挙げた「どんな小さな子にもきちんと説明して納得させなければいけない」と考える人たちも同じです。 “さあこの子を説得するぞ”という意気込みがありますから、どうしても正対することになります。そして表情も声も厳しいものになるはずです。それが子どもを動かします。

 私はたくさんの先輩から多くの知恵をいただいてきましたが、その中でもっとも役に立ったことのひとつは、「叱るときは怖い顔で叱れ」というものです。特に小学校の低学年の子を叱るときはそうしろと―。

 まったくその通りです。ちなみに、これは簡単な実験で証明できます。小学校1年生の教室で休み時間に騒いでいる子がいたとします。休み時間ですから騒いでいてもよさそうなものですが、度を越すと注意しなくてはなりません。そんなとき、状況をそのままにしておいて「お〜い、いいかげんにしろよぉ〜、少しうるさすぎるぞぅ〜」とか言ってみるのです。日ごろの担任のあり方にもよりますが、それで静かになる例はまずありません。

 すべきことはその子のところまで歩いていき、中腰になって顔と顔を合わせ、しっかりとした怖い顔で「休み時間であってもそんな大暴れしてはいけません。しばらく静かに本でも読んでいなさい」、そう言えばいいのです。それでしばらくは静かにしています。

 怖い顔と怖い声、それには個性があります。
 怒ると途端にのっぺりとした無表情になり、話し方が異様に丁寧になる先生がいます。よくわかりませんが、子どもにはとても怖いようです。あるいは突然目が細くなり、氷のような視線を発する先生もいます。さらにまた私が「『見捨てるわよ』サイン」と呼ぶ恐怖のオーラを発光させるような人もいます。もちろんもともとの顔が怖いという、教師としては極めて有利な人もいます。

 しかし本当に大切なのは怒った時と日常との落差であり、日ごろから母親のように柔らかな表情と優しい声で接していないと、怒った時の恐怖が伝わっていきません。その意味でも、いつもは“優しい先生”でいたいものです。