カイト・カフェ

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「教師の役得」〜かつて映画の招待券をもらっていたことがある②

 かつて映画館の招待券が学校に置いて行かれたことがあったというお話をしました。
 たいていの教員は年中忙しがっていますからその券も無駄になることが多かったのですが、私の数少ない趣味のひとつが映画鑑賞でしたから、けっこう便利に使わせていただいていました。それでトラブルになったことはありません。
 ところが教員になって10年以上たってから(ということは映画の招待券を便利に使わせていただくようになってからも10年以上)、突然、入場を断られたのです。

 息子が4〜5歳になったころだったと思うのですが、長期休業中のアニメ大会みたいなのが終わって、宇宙人だかロボットだかが出て来る、とにかく小さな男の子が好きそうな一般映画を、一緒に観ることにしたのです。
 チケット売り場で息子の券(たぶん1000円くらいだったと思う)だけを買い入場口を通ろうとしたら、モギリのおじさん(たぶん経営者)が、
「お客さん、この券(招待券)はアニメ大会に来てもらうために学校に持って行ったもので、他の映画で使われちゃ困るんだよ」
 今までそんなこと、言われたことがありません。そこで、
「そんなこと、どこにも書いてないじゃないですか」
ととりあえず言ってしばらくやり取りしたのですが、どんな偉そうなことを言っても要するに“タダで映画を見させろ”という話なので迫力がなく、すごすごと引き下がる羽目になりました。
「じゃあ、息子の分は払い戻させていただきます」
 そう言って千円札を受け取って帰ったのですが、うっかりしていたのが駐車料金。映画館の半券を見せれば無料になるという駐車場だったので何もせずに戻ってくると一銭の割引もなし。考えてみれば映画館までの往復のガソリン代だって損です。
 車に乗り込むとまた腹が立ってきて、
「だったら最初から『アニメ大会招待券』と書いておけばよかったんだ。招待券もらって申し訳ないと思うから児童にも割引券を配ったのに、いいように使われた。
 こんな映画館潰れればいいんだ!
 と悪態をつきながら帰ってきました。
 そしたらわずか半年後にその映画館が潰れてしまい、観られる映画の数も減って私が困りました。
 確かに、あんなセンスの悪い経営者では潰れもします。
 あの日、私たちを追い返したばかりに2席を空にして空気に映画を見せたのです。現金として息子分の1000円を取り損ねて、潜在的観客を数十人失いました。なぜなら私は招待券のないときはきちんと金を払って観に行っていましたし、私がしゃべれば結構な宣伝にもなったはずだからです。ガラガラの映画館よりも一人でも客が多くいれば、他の観客だって気が楽でしょう。

――と、それで急に思い出したことがあります。
 それは私が教員になったばかりの独身時代で、生徒に誘われて一緒に映画を見に行った時のことです。
 生徒が一人ずつ、「中学生1枚」「中学生1枚」・・・と入場券を買っている最中、突然、私は聞いたばかりのお笑いの一部を思い出したのです。
 それは、
「映画館で子どもたちが『高校生1枚』『高校生1枚』・・・そしたらそのあとに窓口に立ったお年寄りが、『農業1枚』・・・」
というものです。
 これはいいことを思い出した、絶対ウケる――そう思って私の番が来たとき張り切って、言ったのです。
「教師1枚!」
 ところが周囲は全くの無反応。そして窓口の中からは、
「ハイ、750円です」
(え? 半額なの?)

 なんだかキツネにつままれたような気持になりながら千円札を出して250円のおつりと入場券を受け取りました。教員割引があったのです。
 その映画館は30年後の今も残っています。教員割引をやっているかどうかは知りませんが。

(この稿、終了)