カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「以心伝心」~陰口を言えば動物も植物も反応する。まして人間をや

 昔勤めていた学校はやたらと鳥のいる学校で、チャボに名古屋コーチン・ウコッケイ、アヒルにカナリヤ、クジャクまで飼っていました。しかしウコッケイなどは素人目にもヨボヨボで、尾羽打ち枯らしといった気の毒な姿でタマゴも産めません。それを当時の校長先生が「本当はタマゴを産んでくれれば子どもも張り合いで一生懸命面倒を見るのになあ」とだいぶ惜しがっておられました。

 ニワトリというのは縄張り意識が強く新たに入れると壮絶な殺し合いが始まってしまうので、追加ということができないのだそうです。そこで校長先生が「もう年なんだから、そろそろ死んでくれてもいいのですが・・・」と言ってたまたまそばにいた私に目をやり、にやっと笑って、「殺(や)っちゃってくれますか?」と言います。

 もちろん冗談です。その直前に東京かどこかで増えすぎたウサギに困った校長と教頭が、生きたまま埋めてしまったという記事が新聞に載っていて、そのことが念頭にあっての話です。

 ところがこの「殺っちゃいますか?」はウコッケイにも聞こえたらしく、翌週から突然タマゴを産み始めたのです。もう相当にお婆ちゃん鶏なのですが。

 これとよく似たことは私の家でもあって、もう20年も前に植えた柿がさっぱり実をつけず、母が面倒がって「切っちゃおうかね」ということになり、それでも20年も家にあったものをただ切るわけには行かないから、秋になって葉が落ちたら神主さんにお祓いをしてもらってから切ることにしようと話していたら、その年の柿はとんでもない豊作だったのです。

 これが人間だとまた違った展開になります。動物や植物は声に出さないと通じないようですが、人間は心に思っただけでも通じてしまうのです。

 たとえば、この子、何か変だ、気持ちが妙な方に向いている、非行にでも走らなければいいが、と思って相談室に呼んで話を聞こうとするちょうどその日、その日に限って妙に調子がいい。調子がいいので一日延ばしに延ばしているうち突然、何か大きな問題を起こして警察に呼ばれたりする。そんなことがあります。
 学校を休みがちな子について、翌週も来しぶるようなら保護者を呼んで本格的に相談しなくてはと思っていると、次の週はやたら元気良く、一週間休みもせずに来ていたりする。それで収まればいいのですが良いのはその週だけで、次の週からまた来しぶるようになる、それでまた対応が2週間遅れる、といった調子です。不思議ですね。

 童話の「さるかに合戦」ではカニが「早く芽を出せ柿の種、出さぬとハサミでちょん切るぞ」と歌う場面があります。やはり動植物には声に出して脅しをかける必要があります。そして人間には内心を気取られないよう、細心の注意を払う必要があるのかもしれません。
*ところで、最初にヨボヨボのウコッケイの話をしましたが、ニワトリの寿命というのがどのくらいのものかご存知ですか? 先の“鳥の学校”で動物飼育教室を開いた際、児童のひとりが獣医さんに質問したところ、答えはこうでした。
「さあ、それがなかなか分からんのですよ、何しろこれまで天寿を全うしたニワトリなんて、学校以外にほとんどいないのですから」
 なるほどと思いました。