カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「半年だけの美術部員が、大人になって分かったこと、得たもの」~高齢者の健康で文化的な生活②

「そっくりに描くこと」が絵のすべてだと思っていた。
それが評価されずに美術部を半年で辞めた少年が、
やがて絵を教える側に回り、
長い年月を経て、生活の一部にするまでの物語。(写真:ChatGPT)

【半年だけの美術部員】

 中学1年生の時、半年間だけ美術部員でした。正確に言えば、半年、正式な部員で、あとの半年は幽霊部員で、そして辞めたのです。
 当時はおそらく部活動の黎明期で、部活はやってもやらなくてもいい、その気があれば二つ同時にやっても、可能なら三つ同時に入っていてもかまわないという時代で、私は入学と同時に美術部に入り、やがてバスケ部の格好良さに惹かれて半年後に入部し、そこからしばらく二足の草鞋を履いたあとで、二年生になるときに美術部の方を辞めたのです。しかし最終的にはバスケもものになりませんでした。運動に特別な才能のない人間が、半年遅れでスタートして追いつくはずがなかったのです。だからと言って美術部の方を選択しておけばよかったかというと、それも違っていそうです。

 そもそも美術部に入ったのは、教科の美術の一時間目に人物のクロッキーが課題として出され、その時描いた絵が先生から絶賛されたことによります。
「こ~れは、素晴らしいなあ」
 その一言で美術部入部が決まり、その週のうちに油絵のセットを買いに行くという浮かれぶりです。父もよく、いきなりあんな高価なものを買ってくれたものです。ところが実際に美術部員としての活動が始まる前に、本来の美術に時間では人物画のクロッキーに色(水彩)をつけ始め、すると先生は、以後まったく何も言わなくなってしまったのです。

 理由は分かります。色がひどかったのです。以後三年間、高校も入れると四年間、美術の授業は受け続けましたが一度も褒められることなく、したがって画家にもなりませんでした。

【勘違いしている子には教えてやるべきことがある】

 褒められなかった理由は今なら分かります。
 私は小学校時代、「フランダースの犬」にいたく感動して、ルーベンスこそ世界一の画家と思い込んでいたのです。ルーベンスやレンブラント、ベラスケス、時代を下ってもドラクロワあたりまでが一流の画家で、人や物は見た通りそっくりに描き、触れればぬくもりさえ感じられるようでなければいけない、そう思い込んでいたのです。
 ですから形(フォルム)は非常に正確に描かなくてはなりませんし、肌や服地に色むらがあるなど、もっての外だったのです。だから当然、厚塗りになる。きれいに仕上がらなかった部分は修正しますからさらに厚くなって、できあがった作品は少し斜めから見ると、何が描かれているのか分からないほどテカテカになっている始末です。いま思い出しても、あれはいけなかった。

 他人のせいにしてはいけないのですが、私のような子に対しては、小学校の担任の先生あるいは中学校の美術の先生は、こんなふうに教えるべきだったのです。
「Tくん(私のこと)、

  1. 本物そっくりな画面を作りたかったら、絵筆じゃなくてカメラを持ってくればいいんだ。今は(60年前の話です)カラーフィルムもあるから、色だって自然な感じにできるよ。
  2. カメラがある以上、(形なんかどうでもいいとは言わないけれど)、正確な形を描き切ることより、キミの感じた美しさや感動が伝わるような描き方をすべきだ。
  3. 例えば山の美しい夕焼けに心を動かされたのなら、手前の電線や電柱なんてなくてもいい。夕焼けを見ているとき、電線なんて気がつかないでしょ? 描こうとして初めて気がつくような木や物や人は、感動している最中のキミにとって「無きも同じ」なのだから描かない。ないものを描いてはいけない。
  4. ただし、キミの心を動かした事物が、いくつか離れたところにあったら、画面上ではそれを勝手に側に持ってきてもかまわないんだよ。その方が美しいのなら、仕方がないじゃないか。遠足などでは「来た時よりも美しく」なんていうけど、絵の世界は、「見たままよりも美しく」。芸術は現実より感動的なものでなくちゃダメなんだ。
  5. 水彩で厚塗りはしないよ。少なくとも初心者のウチは画用紙の白が透けて見えるようでなくてはいけない。なぜかって? それが水彩の特徴だからさ。厚塗りでテカテカにしたいなら、油絵具やアクリル絵具を使いことだ。いずれにしろ授業では水彩絵具しか使わないから、今は透明感のある、水彩絵具の良さが出るような絵の勉強をしてみよう。
  6. え? 描き方が分からないって? じゃあ少し勉強してごらん。簡単だよ。一流の水彩画をたくさん観ることだ。今は図書館の画集でしか勉強はできないけど、それだけでもきっと役立つはずだよ

 幸い私は小学校で絵も教えましたから、自分の後悔が役に立ちました。あとひとつ大事な点は、画面ばかり見ないで対象をよく見ながら描くことで、これも強く指導しました。
「ホラ、どうして何も描いていない画用紙ばかり見ているの? 画用紙じゃなくてモデルの方を見なくちゃ。モデルだけ見て描こう、画用紙なんて、カンニングするくらいにちょこっと見ればいいんだ」
 しかしこの件は長くなるので、今日はここまでとします。

【ワイエス展を観に行ってきました】 

 友人に「良かった」と紹介されて東京都美術館の「アンドリュー・ワイエス展」に行ってきました。
 ワイエスはポップアートなどの抽象表現主義が主流だった20世紀のアメリカで、あえて写実を貫き、アメリカの田舎の風景やそこに暮らす人々の静かな暮らしを描いた孤高の画家です。テンペラ(顔料を卵の黄身と水で溶いた絵の具を使う)と水彩を得意とし、ドライブラッシュという技法を多用して独特の“乾いた空気感”を生み出したと言われています。

 鑑賞するうちに気がついたのですが、この齢まで何回も美術館に足を運びながら、水彩画中心の展覧会というと“いわさきちひろ”以外、行ったことがなかったのかもしれません。
 いったん絵の具をつけた筆を布やティッシュでふき取って、できるだけ乾いた状態で重ね塗りする“ドライブラッシュ”という、たぶん水彩の世界では“いろは”みたいな技法についても知らなくて、いたく感動しました。
 ビタビタの絵の具が画用紙の上で混ざり合って独特の世界をつくる、よく知った水彩の技法と合わせて使えば、2倍の可能性が見えてくる――そう思ったら久しぶりに絵を描いてみたくなりました(たぶん描かないけど)。

アンドリュー・ワイエス展(2026)~ 開催情報まとめ
■ 東京都美術館(東京・上野)
会期:2026年4月28日(火)?7月5日(日) 
休室日:月曜(ただし 5/4・6/29 は開室)、5/7休室など 
開室時間:9:30?17:30(金曜は20:00まで)

続いて、
■豊田市美術館(愛知)
会期:2026年7月18日(土)?9月23日(水) 
■ あべのハルカス美術館(大阪)
会期:2026年10月3日(土)?12月6日(日)