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「ザッケローニは見た」~誰が私たちを日本人に育てたのか②

 かつて、サッカー日本代表チームを率いた監督に
 アルベルト・ザッケローニがいた。その就任前、
 彼は、日本代表の自ら自分の荷物を運ぶ姿を見て、
 この国の監督をやろうと決心した。
――という話。(写真:フォトAC)

ザッケローニは見た!】

 日本人の基本的な道徳性とチーム力の関係に早くから注目し、指導の基礎に据えた外国人指導者がいます。2010年から2014年までの4年間、サッカー日本代表の監督を務めたアルベルト・ザッケローニです。
 JFA日本サッカー協会)の公式サイトでは、
「南米や欧州の強豪国と渡り合えるまでに成長させ、世界大会で上位を狙えるステージへと押し上げた。その手腕は、日本サッカーの実力を飛躍的に向上させたとして高く評価される」JFA 日本サッカー殿堂掲額者
と紹介されている人です。

「日本で過ごした4年間は人生最良の時間だった」2024.10.02 現代ビジネス
というほどの親日家で、
「日本はサッカーにかかわる部分でも、サッカー以外の部分でも常に、私に感動を与えてくれています。これからも機会があればこの日本に喜んで戻ってきたいと思います」(同上)
とも語っています。

 ザッケローニはまた、日本チームの良さについてこんなふうに語っています。
「日本が他のチームと違うのは団結心(がある状態)からスタートができることです。日本の選手たちはチームが勝つことに大きな喜びを感じる。仲間を助けることもいとわない。団結力や犠牲心という面で、監督が気を使う場面が少ないのです。カタールのワールドカップで見せた日本の戦いも、ものすごく良かった」(2024.11.24 JFA インタビュー#2)
 ザッケローニは別の機会にも同じことを語って、
「これは日本以外ではなかなか見られない現象です」(2024.11.24 JFA インタビュー#1)
と紹介しています。

【団結力の強いチームはこれだから勝つ】

「チームが勝つことに大きな喜びを感じる。仲間を助けることもいとわない」
 そういうチームが強い理由はわかります。
 勝つこと、勝つために頑張ること、苦痛に耐えること、集中力を切らさないこと、最後の1秒まで執念を燃やすこと、そういったことのすべてが、自分ひとりのためではなくなる――自分とチームの誰かのためのものとなるからです。

 ときどき不勉強なお子さんに対して親御さんの中に、
「結局は自分のため」
とか、
「最後に困るのは自分だけ」
とかいって脅す人がいますが、その時の子どもの心の中にあるのは、
「困るのが自分ひとりなら、どうでもいいじゃん」
という気持ちです。おそらく小さなころから「ひとに迷惑をかけてはいけません」と教えられてきた日本の子どもに特徴的に起こる反応で、少なくとも中学生以上の子どもはすぐにそう考えます。

 しかしことが誰かのためだということになると簡単に諦めるわけにはいきません。試合に出られずにベンチを温めている選手たち、そもそもメンバー入りさえできなかった仲間たち、スタッフ、家族、応援してくれる友人たち、見ず知らずのサポーターたち、そういった人々の努力や献身、期待に応えようとしたら、簡単に諦めるわけにいかないのです。だから団結力の強いチームは試合にも強い。
 けれどそうしたチーム、個人は、どうやったら生み出せるのでしょう。

【団結力の強いチームはこうしてつくる】

 これについてもザッケローニはお門違いのことのように、しかし実は本質的な話をしてくれています。
印象に残ったこととは少し違うかもしれませんが、私が好きだったのは何気ない日常のひとこまでした。例えば、みんながお辞儀をして「こんにちは」とあいさつをしてくれる。1日がそういう形で始まる生活がとても心地良かったのです。(前掲、現代ビジネス) 

 私がサッカー日本代表大谷翔平選手のことを考えていてザッケローニのことを思い出したのは、就任前のこんな逸話に記憶があったからです。
 それは2010年より前、JFAからの監督への就任要請があった際に、ザッケローニは自分の荷物を自分で運ぶ日本選手の姿を思い出して、「ああ、ああいう人たちとならきっとやっていけそうだ」と考えたという話です。

 この件については以前もネットで調べたのですが、どうも見つかりません。そのかわり記者の感想として、こんな記述が拾えました。
「彼(ザッケローニ)はチームの輪を何よりも大事にした。海外遠征の際、到着した空港で選手たちがチームの荷物を運ぶ手伝いをしているところを見て、そのまま待っている光景を何度か目にしたことがある。スタッフを引き連れて先に移動しても構わないのだが、そうしなかった。一緒の場にいて、かつピッチ内外問わずどんなときも、選手やスタッフをしっかりと見ようとする監督でもあった。ゆえに選手、スタッフからもリスペクトされ、愛された」(前掲、現代ビジネス)

 到着した空港で選手たちがチームの荷物を運ぶ手伝いをしている姿――それって自然なことなのでしょうか? 他の海外の選手、ロナウドとかロナウジーニョとか、あるいはメッシとかがチームの荷物を運ぶ手伝いをしている姿なんて、思い浮かびます? 浮かびませんよね、おそらくしていない。
 荷物は空港スタッフだとかチームスタッフだとか、そういう誰かが運ぶものでスーパースターの持つべきものではないのです。しかし日本人アスリートは自分で運ぶ――日本人の私たちにはかえって気づきにくいことかもしれませんが、ザッケローニは見逃さなかったのです。

 引用した現代ビジネスの記事には、荷物運びを当然のこととして行う選手たちとともに、その姿を微笑ましく見守るザッケローニの姿が美しく映し出されています。さすがに監督までもが荷物運びを始めたら大変なことになるので遠慮したのでしょうが、それでも近くに佇むことで、監督もまた一体感の輪の中にいようとしたのでしょう。
(この稿、続く)