我を忘れたわけでも、追い詰められたわけでもないのに、
犯罪に手を染めていく人たちがいる。
子どもをいたぶる人たち、人を騙して財産を奪う人たち。
彼らを理解するのはとても難しい。
――という話。
(写真:SuperT)
【まったく理解できないあの人たち】
若いころの私はおそらく同年配の中ではかなりの読書家だったし、映画もテレビもよく観る方でした。今もよく見ます。人生の大半を教員として過ごし、中学校の経験もあるので学級担任、教科担任として4000人~5000人の子どもとかかわってきたことになります。公立の義務教育学校でしたので顧客を選びません。保護者の中には大学の先生もいれば、どう見ても“その筋”の方としか思えないような人もいました。“教師は世間知らずだ”とよく言われますが、けっこうさまざまなひとたちとの付き合いがあります。
ここ20年あまりの間に、4800を超えるブログ記事を書いてきました。考えること、調べること、調べて考えることは習慣づいていますから、それほど「ボーっと生きてきた」わけでもありません。特に人間についてはいっぱいいろいろ考えてきました。
そこそこの人生経験はあるし、それなりに一生懸命に考えてきたのに、しかしまったく理解できない人々が何人かいます。1㎜も理解できない。
ひとつは子どもの虐待をする親たち。生後間もない赤ん坊を傷つけるとか、幼児をいたぶるとか、なぜそうしたことができるのか、それがほんとうに分からないのです。おそらく“被害者意識”が手掛かりだと思うのです、どうにもうまくハマってきません。
赤ん坊なんてライオンの子でも可愛いものです。クマだってゾウだって可愛い。ましてや人間の、しかもわが子が可愛いのは当たり前だと思うのですが、それを痛めつけて、苦しんで泣くのを平気で(かどうかは分かりませんが)見ていられる神経は、どうにもこうにも理解ないのです。でも、現実にはある話です。しかもたくさん。
【もうひとつの理解できない人たち】
もうひとつ理解できないのは、人を騙して利益を得ようという人たちのことです。昨日妻のところに届いたメールの作成者たち、あるいは「電話でお金詐欺」の担当者たち――。あの冷静さと、熱心さ、「受け子」や「かけ子」といった役割分担がしっかりしていて、分業と協業ができる。その様子はちょっとした企業体で、だったらもっと普通に働けよと言いたくなるような真面目さです。なぜ普通の生活ができないのか?
それに比べたら殺人犯や粗暴犯の方がはるかに分かりやすい気がします。
この類には、自らの感情をまったく制御できない人たちがたくさんいます。こんなことをしたら大変だと頭の隅では分かっていながらやめられない、やってしまった後で初めて己のしたことの重大さに気づく、――いずれにしても反省がなかなか生かせない人たちです。しかも彼らは、しばしば自分のやったことに苦しめられています。
あるいはまた、支えきれない被害者意識のために、他人を傷つけずにはおかない人たちがいます。自分自身が傷だらけで、だから人に(社会に)復讐する権利があると考える人たちです
今年3月11日に東京都高田馬場で起こったいわゆる「ライバー殺人事件」は、被害者に250万円もの大金を貸して踏み倒された42歳の男性が犯人でした。250万円は大半が消費者金融からの犯人自身の借金で、裁判まで起こして返済を求めたのに被害者は出廷すらしない、勝訴しても返済しないというふてぶてしさ――。
「裁判を起こされても行かなくてもいい」「敗訴しても、ない袖は振らなくていい」
誰かがつまらないアドバイスをしたのでしょう。22歳にしてはやることが図太過ぎます。
この事件、したがって犯人に対する同情の声も少なくありませんでしたが、普通の、無職の42歳が22歳のシングルマザーにしてあげられることなど、本来はほとんどないのです。最初が間違っていたのであって、だから私は同情しません。もちろん理解できる部分は多少ありますが――。
【不可避ではないのに敢えて犯罪者になる人たち】
基本的にすべての犯罪は“それを行わずに済む可能性がある”から犯罪となります。可能性がまったくない場合や極めて低い場合は、人を殺しても犯罪となりません。正当防衛や緊急避難がそれに当たります。
カッとなってやった暴行も追い詰められて行ってしまった殺人も、不可避ではないので正当防衛や緊急避難の対象にはなりませんが、それでも多少こころを寄せることができます。《その気持ちわかる》とか、《どうしても我慢するのは難しいんだね》という部分です。
しかし計画的に人の財産をだまし取る「特殊詐欺」や「投資詐欺」はどこにも同情の余地はありません。それだけの組織力、計画性、持続性、あるいは目的追及力があるなら、その力を他のことに使えばよかったのです。
詐欺で年間に10億円も20億円も稼いだらむしろ使い道はありません。昨日までの無職が突然札びらを切り始めたら、だれかが通報します。
大きな詐欺事件の犯人は、したがって数十億円の収入があっても年収数百万のサラリーマンと同じような生活に耐え続けるか、派手に使って捕まるしかなくなります。どちらにしても楽しい道ではありません。
それなのに積極的に加担していく。その生き方が分からないのです。
だいぶ支離滅裂になってきました。
実はちょっとした気の迷い、わずかな虚栄、持って生まれた虚言癖によって詐欺犯罪に手を染めてしまったある女性のことを書こうと思っていたのです。ほんとうにつまらない人間のつまらない話です。それを始めるにあたって、どこから始めようかと思っているうちに、こんな話になってしまいました。
(この稿、続く)