カイト・カフェ

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「戦争は起こしてはならない」~始まった戦争の中で、人間は果てしなく冷酷になれる

 ヒロシマ原爆80周年の今日、
 改めて戦争全体についても問い直す必要がある。
 結局、一度始まった戦争はなかなか止められないのだ。
 その戦争の中で、人はいくらでも残酷になれる、
という話。(写真:フォトAC)

【広島平和記念式典8:00~】

 今日は広島に原子爆弾が落とされてから80年目の祈念の日です。「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」いわゆる「広島平和記念式典」が、午前8時より広島平和公園で開催され、その様子はNHKでも中継されることになっています。80年という節目の年ですから、例年よりさらに強く、平和への思いを新たにしたいところです。

 昨日、私は、
「一瞬で166,000人が死に、56万人が長く続く苦痛を味わったという事実に対して、明確な責任追及が行われずに来たという事実に関しては強烈な違和感もある」
と記し、
「いかに戦争中のことだといっても、これだけの民間人の死に対して、アメリカは責任を取るべきだ」
とも書きました。
 しかし同時に現状でアメリカ政府が陳謝する可能性はないし、その責任を言い立てても身動きが取れなくなるだけ、
「原爆投下の責任追及を棚上げにしたのは、それこそが日本人の知恵でした。それを言い始めたら、二国間は何も始まらないからです」
とも記しました。その気持ちは変わりません。

 ただアメリカを含む世界の人々が、
「一瞬で166,000人が死に、56万人が長く続く苦痛を味わった、そしてその大部分が民間人だったという事実は重いが、それでもなお、原爆投下が“第二次世界大戦”という狂気の中で起こったという事実は差し引くべきだ」
と言われれば、やはり気持ちは引きます。

第二次世界大戦の犠牲者】

 第二次世界大戦の国別犠牲者(死者)は軍人と民間人を合わせて、
 日本  310万人
 ドイツ 689万人
 ソ連  2060万人
 中国  1321万人
 オーストリア  118万人(うちユダヤ系市民65万人)
 ポーランド   603万人(うちユダヤ系住民270万人)
 ユーゴスラビア 171万人
などと言われています。その圧倒的な数字には、ヒロシマ16万6000人も霞んでしまいそうです。

 別な数字の取り出し方をすれば、ユダヤ人はそれだけで600万人が殺され、当時はソ連領内あって計算上はソ連人犠牲者として報告されているウクライナ人は、1932~1933年のソ連政府による大量収奪(ホロドモール)による餓死者(330万人~数百万人)を含めて、600万人~800万人と推定されています。

 ウクライナの首都キーウは1941年のドイツ軍によるモスクワ侵攻の際に、逃げるソ連兵によって徹底的に破壊され、その後1943年、復興した街を今度はソ連軍から逃れようとするドイツ軍によって再び破壊されています。当時は自国の政府だったクレムリンによって破壊されたキーフは、いったんは救済者と目されたドイツ軍によっても破壊されたのです。
 現在進行形のウクライナ戦争において、ウクライナがまったくロシアを信じていないことにはそれなりの理由があるのです。おそらくドイツに対しても眉に唾をつけて接しているに違いありませんが。

【戦争の冷徹】

 先日、NHKスペシャル映像の世紀」を見ていたら、ノルマンディー上陸作戦で連合国軍総司令官だったアイゼンハワーが15万人の兵力に対して5万人の死傷者数を覚悟していたところ、実際には1万人強の犠牲で済んで、ニンマリ笑う場面が映し出されていました。しかし5万の予定が1万で済んでよかったと考えるのは数字上の話で、その1万人にも親兄弟や妻子・恋人はいるのです。
 上陸作戦の行われた5つの浜のうち最も激しい攻撃を受けたオマハ・ビーチでは、第一波攻撃隊の実に90%以上が死傷したといわれています。しかし形勢が逆転するまで、その後も繰り返し、兵士は地獄に投入され続けました。

 いや、ノルマンディーの非人間性を言うなら、それは上陸の前から行われていました。作戦実行に先立って、連合国軍はフランス北西部の海岸沿いにあったドイツ軍の拠点を砲撃および空爆していますが、その際に正確な上陸予定地点を悟られないため、無関係な場所まで広く攻撃したのです。その結果、フランスの民間人にも犠牲が出たのですが、死者は3万5000人にも及んだのです。敵に殺されるならまだしも、仲間だと思っていた連合国軍の攻撃で殺されたわけです。

 ノルマンディー作戦の翌月、ドイツのラステンブルクという町でヒトラー暗殺未遂事件が起こります。いわゆる7月20日事件ですが、以後ヒトラーの猜疑心はいっそう強まり、側近の誰の言葉にも耳を貸さなくなり、最終的にヒトラーは世界を道連れにすることを考えるようになります。
 第二次世界大戦におけるドイツ民間人の死者は200万人と言われますが、そのうち100万人はこの猜疑心に駆られたヒトラーの10カ月間の狂気が生み出したものです。

【戦争は起こしてはならない】

 人間の死に不条理や反正義はつきものです。しかし戦争におけるそれは規模も悲惨さも桁外れです。もちろんヒロシマの16万6000人をその中に埋没させてはいけませんが、同時に、戦争はひとたび起これば止められない、どの国家・どの民族であっても果てしなく冷酷になれることを、いつも心していなくてはならないのです。