文化が異なれば常識も異なる。
学ばなければ鍬の使い方も分からないし、
タマネギや長ネギの育て方も分からない。
ピーナッツも何かも、知らないのかもしれない。
という話。
(写真:フォトAC)
【やろうと思ったら鍬の使い方が分からない】
親が買った土地に30年前、家を建てて現在も住んでいます。細かな点については端折りますが、土地を買った際に隣接する1アールほどの畑が周囲から孤立する形で残ってしまい、地主から頼まれてその部分も畑のまま購入したようです。「畑のまま」というのは宅地に転用できないので、そのまま畑作をしなくてはならないという意味です。
そこで家を建てると同時に私も俄か百姓を始めたのですが、鍬を買ってきて振り上げても、とりあえず耕しながら前に進むのか、後ろに下がるのか、それすら分からないところから始めたわけですからなかなか大変でした。
いま挙げた「畑を耕すのに、鍬を振るいながら前進するのか後退するのか」という疑問はなかなか珍しいもので、特殊な状況の特殊な人にしか生まれないものです。畑仕事の初心者が、初めて鍬を振るった瞬間に思いつくだけで、慣れると二度と浮かびません。さらに言うとその疑問をプロのお百姓に投げかけると、たいていの場合は一瞬戸惑います。中には実際に鍬を振るうようなしぐさをして確認する人もいたりします。
「バットを握るとき、利き手は上になる? 下になる?」
と同じで、当たり前すぎて意識すると分からなくなるのです。熟練者にとってはそもそもなぜそれが問題になるかも分からないことがあります。
昨日の飼料用トウモロコシもそうです。生産者に「茎も葉も実も一緒くたに切ってしまうのですね」と言えば、「飼料用トウモロコシの実なんて小さすぎて、あそこだけ食べるなんて容易じゃねえぞ」くらいに言われかねませんし、パイナップルだって生産者からすれば、「まさか本気でヤシの木みたいになっているなんて思っていたんじゃないだろうね」ということになるでしょう。
しかし知らないというのはそういうことなのです。思わぬところに知識の穴があったり、まったく疑いもしなかったところに思い違いがあったり、あるいはしょうちゅう見ているもの、やっていることに無知だったり――。
【タマネギは畑でどんなふうに育っているのか】
例えば普通の台所でよく見かけるタマネギ。あの黒柳徹子さんの髪型だったり武道館の屋根の一番上にあったりするような玉の部分は、畑にあるとき土に埋まっているのか、それとも土の上に出ているのか――。
一度でも収穫の瞬間を見た人なら確実に答えられるこの問題。畑を持つ前の私は知らなかったのです。答えは下の写真の通り、
地面から顔を出した形になります。
田舎のスーパーマーケットではほぼこの形のまま売っている場合もありますが、新鮮さよりも貯蔵を優先するなら、上の緑の部分と根を切って、干して乾燥させた後で出荷します。十分に乾くと一番上の皮が薄くペラペラとした茶色の、私たちの良く知るタマネギになります。
タマネギは分かったとして、では長ネギの方はどうなっているのかというと、これがまた違った育て方になるのです。
【長ネギはどうなる?】
タマネギもそうですが、長ネギも種を蒔くのは前年の秋です。冬を越して牧草や雑草のように密生する30cmほどの細いネギを、掘り出してバラバラにし、今度は一列にきちんと並べて植え直します。

二枚のうち上の写真は春、植え直して一カ月ほど経ったころのネギの列です。下は秋、収穫期を迎えたころのネギ。二枚の写真を見比べて、ネギの太さや色の明るさ以外に、異なっている点は見つかるでしょうか?
明らかに違っているのは上の写真ではネギが溝の底に植えられているのに対し、下の写真では畝の一番高いところ、峰の部分にあるということです。いつ、横にずれたのでしょう?
――と言われて考え込んだ人は都会人です。ネギが自ら歩いて山に登るなどということはありません。
実は春の植え替えから秋の収穫までの間に、生産者はネギが伸びるに合わせてネギとネギの間の山を崩し、溝を埋め、畑が平らになったら今度はネギの間に溝を掘るようにして土をネギに寄せ続け、ついには峰の頂上に押し上げてしまったのです。かつて谷の底だった部分が、秋には山脈の頂上になっている――まるで地球上の山の褶曲(しゅうきょく)みたいなものです。最初に掘った溝の底から計算すると、ネギは40~50㎝も高いところに上がった感じになります。なぜそんなことをするのか――。
よく考えれば分かることですが、ネギは垂直に移動したわけでもありません。ネギの一番底、白髭のような根の生えている部分は、最初に置かれた溝の底に今もあるのです。そこから上に伸びれば伸びただけ次第に埋められていって、今や根から40~50㎝上までもが土に埋められて地下にあるわけです。
太陽の光を浴びることもなく光合成もできず、だから白いまま、身も引きしまっています――と書けば、何のための土寄せか分かって来るでしょう。私たちが食べるのは、長ネギの下の白い部分です。そこは長ければ長いほどいいのです。
この話、ネギを育てたことのある人には当たり前過ぎてまったく面白みのない話です。それなのにここに記したのは、つい最近、あるテレビ番組でネギ農家を扱っていて、ネギの育て方を知ったマツコ・デラックスがいたく感動していたからなのです。誰かの当たり前が別の誰かの目からウロコと言うことはよくあることです。
【子どもと農業ワンダーランド】
ピーナッツは「ナッツ(木の実)のような味がするけど実はピー(豆類)」という意味があるそうです。江戸時代に中国から伝わったので「南京豆」という呼び方もします。「南京」を「中国由来」という意味で使う例は他に「南京錠」や「南京虫」があります。
またこの作物の「花が受粉した後に地面に向かって伸び、土の中で実をつける」という特徴から「落花生」という呼び名もあって、昭和期はこれが主流でした。その「落花」と土の中で「生きる」様を子どもたちに見せたくて、我が家でも30年来、毎年タネを蒔いて生産しています。しかしきちんと観察していればいいのになかなかできなくて、毎年見逃しています。
その他、植えてから忘れたころ(2~3年後)に芽を出してくるアスパラガスだとか、大きな房を切り取ったあといくらでも小さな房をつけるブロッコリだとか、アゲハチョウの産卵場所であるサンショウの木だとか、一緒にやればいくらでも楽しいことはあったはずなのに、子どもと畑仕事をやった記憶がまったくありません。
私のことですからやらせないはずはないのですが、なぜ覚えていないのか、とても不思議な気がします。
(この稿、終了)